第三章 アイアイの大冒険 第三章⑨ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ グリグリの手の中で、旧塔で見つけた“鍵”がわずかに光を放っていた。その光は装置のくぼみと共鳴するように脈打ち、青白い反射が壁や天井を淡く照らしている。 アイアイは無 …
第三章 アイアイの大冒険 第三章⑧ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 轟音と土煙が入り混じる。黒い腕は十数本を超え、もはや数える意味すらなかった。そのすべてが、ダガールと猫の使者を押し潰そうと渦を巻く。 「ダガールっ!下がって!」猫の使者の声 …
第三章 アイアイの大冒険 第三章⑦ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 風が止んだかと思うと、また微かに流れ出す。それはまるで、こちらの様子をうかがうように、迷いながら谷を抜けていく風だった。 「三度、曲がった先に“門”があるはず……だよね?」 …
第三章 アイアイの大冒険 第三章⑥ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 右の崖道を選んだ一行は、風の音が少しずつ遠のいていく感覚の中で、しばらく岩の間を縫うような細道を歩いていた。ガルガンチュアの示した通り三度曲がったころ、道幅はわずかに広がり、やが …
第三章 アイアイの大冒険 第三章⑤ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ “鏡の穴”から現れた黒い腕──あの異形のものが霧散したあと、四人はその場にしばらく立ち尽くしていた。 「本当……何だったんだ、あれ」 再びアイアイが口を開いた。目を見 …
第三章 アイアイの大冒険 第三章④ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 焚き火の煙が、湿った空気に滲むようにして、空へと昇っていく。風は幾分落ち着いたものの、谷の奥からはまだ不規則な唸りが時おり響いていた。 ダガールは荷車をそっと地面に下ろし、 …
第三章 アイアイの大冒険 第三章③ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 走り続けた三人がようやく峡谷に入ると、風の性質が一変した。 それまで三人の頬を撫でていたような流れが、今は岩壁にぶつかって跳ね返り、まるで意志を持つかのように三人と一体を押し戻そ …
第三章 アイアイの大冒険 第三章② Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 「アイルの……?」アイアイの声が、反射的に漏れた。 その名前は、母の名前であり、映像の少女の名前でもある。同一人物であることは本来あり得ないが、どちらにしても今のアイアイに …
第三章 アイアイの大冒険 第三章① Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ その姿は、ゆっくりと近づいてきた。 空の高みから、まるで滑空するかのように。ゆっくりと翼を羽ばたきながら。アイアイはその異様な静けさに、息を呑んだ。 ドラゴン──その …
第二章 アイアイの大冒険 第二章⑩【第二章 完】 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 誰かが扉を閉じる音もしなかったのに、気づけば階段の上はまた闇に閉ざされていた。 “シーカー”が残した余韻は、石壁に染み込むように、その場にじっと留まっている気がした。 アイ …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑨【第一章 完】 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 誰かが、図書館の前で立ち止まっていた。アイアイはその建物を見て、思わず駆け寄った。 「……図書館! 情報があるかもしれない!」 しかし扉には、デバ石の端末と、小さな文 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑧ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 王都ザラーリンの中へ足を踏み入れたとたん、空気が変わった。 外の風の流れとは違う、どこか止まったような空気。街の中心部に近づくにつれ、その静けさは重さを帯びていった。 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑦ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ くぐもったような声が、草むらの向こうから響いた。 アイアイはびくりとして顔をあげた。 アイアイは暗がりから焚き火の明かりの中に入ってきた人物に急いで焦点を合わせた。 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑥ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイアイは、自分がまだ子どもで一人旅をしているのを不審に思って入城を断られたのだと思うことにした。デバ石のことは適当なことを言って追い払うための口実だったのだと。思えば、入城を待 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑤ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 夕暮れが近づくころ、丘の向こうにようやくザラーリンの城壁が姿を現した。 陽の光を浴びて赤く染まる石造りの壁は、高く、厚く、どこか冷たさを感じさせるような重々しい存在 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章④ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ なにかの聞き間違いだと思ってアイアイは特に気にしなかったが、まわりを見回したことで別のあることが気になった。 「おばあさんは、デバ石はもっていないんですか?」 この世 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章③ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 川を渡り、午後になったころ、小さな林を抜けた先で、一本の煙が空に向かって細く立ち上っているのが見えた。 近づいていくと、そこには旅装束をまとった年老いた老婆が腰を下ろし、焚 …
第一章 アイアイの大冒険 第1章② Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ それから少し進んだ先で、小さな川が現れた。細く蛇行するその流れは透明で、底の石がはっきりと見えるほどだった。 川縁に腰を下ろしたアイアイは、ポケットをさぐり、カラスの嘴から …
第一章 アイアイの大冒険 第一章① Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 水平線の向こうへとつづく一本の街道を、ひとりの少年が歩いていた。 朝からの霧はまだ晴れておらず、見渡す先には、かすんだ丘の稜線がぼんやりと浮かんでいた。上空には1羽のカラス …
第五章 アイアイの大冒険 第五章23 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 大階段を降りるアイルの目線にはあるものが見えてきた。コルヴィンは何かにおびえたようにうつむき足元だけを見ている。アイルは目線の先、階段を降りた先に、金属の硬い冷たさを感じていた。 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章㉒ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 大階段へ向かう通路は、恐ろしいほどに冷たく澄んでいた。アイルは胸にモヤモヤを抱え、コルヴィンを引っ張るようにして早足で廊下を進んだ。 「ア、アイルさん!そんな急がなくても… …
第五章 アイアイの大冒険 第五章㉑ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルは しんと静まり返った廊下を忍び足で進んだ。モヤモヤを胸に抱えながら、心臓が落ち着かないまま早鐘を打っている。「……シーカー、近くにいるの……?」問いかけると、モヤモヤは光 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑳ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルは診断室の白い天井を見上げたまま、先程、聞いた小さな声を思い返していた。 ――「アイル…ダイジョブ…ブブブ…ダイジョブ」 胸のあたりで光がふるえる。膝に乗ったモ …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑲ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 扉の向こう、図書室の空気が揺れている。扉の向こうの空間に、羽音が静かに混じっていく。 「……来ましたね。ふー……探しています」スペーラーが扉に耳を当てて言った。 「ど …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑱ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ シーカーは、ただ走っていた。どこへ向かっているのかもわからないまま、ただ追い立てられるままに。 背後から、羽ばたきと金属の擦れる音が迫ってくる。 「侵入者、北側回廊に移動! …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑰ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 光の中を漂い、浮いた体は何度、回転したのだろうか。眼前を覆いつくす青白い光がはじけた瞬間、シーカーは背中から着地した。痛みを堪え、勢いよく体を起こし、あたりを見回す。 胸が …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑯ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 「そうです。その仲間の名前がシーカーです…」アイルは泣き出しそうな声とともに言った。 簡易診断室は、白い石壁に囲まれた静かな部屋だった。天井の淡い光が脈打ち、部屋全体に柔ら …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑮ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルはメリウス先生のあとを歩いていた。学舎の廊下はひんやりと冷たく、まるで建物そのものが静かに息をしているようだった。 壁際には古い書物と器具が並び、棚には研究員たちが扱 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑭ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 落下する、というよりも――浮かんでいた。重力の感覚が消え、足も腕も、身体そのものの輪郭さえ曖昧になる。光だけが流れ、色だけが揺れ、耳の奥で風のようなものが鳴った。 やがて― …