第四章 アイアイの大冒険 第四章⑦ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 崩れた小講義室の中、オイラーと名乗ったモグラ族の少年は、目を閉じたまま近くの壁にもたれかかった。『ふわぁ』と欠伸をして、そのまま寝てしまったようだった。アイアイたち三人はまだ警戒 …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑥ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ どれほど走ったのか、三人はついに息をつき、崩れ落ちそうな小部屋に身を隠した。そこは学舎の一角にある小講義室の跡で、壁の半分は崩れて穴が空き、外の冷気がしみ込んできていた。いまのと …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑤ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ グリグリの叫び声が広間にこだまする中、二体のウーセルは同じ速さで歩を進めてきた。のっぺりとした顔は感情を持たぬはずなのに、その迫る気配は生々しい恐怖となって三人の喉を締めつけた。 …
第四章 アイアイの大冒険 第四章④ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 白い人形が透けるように消え去った後、廊下は深い沈黙に包まれた。冷気はなお残り、空気は張りつめたままだった。ついさっきまで異形の存在が横たわっていたはずの場所を見つめても、そこには …
第四章 アイアイの大冒険 第四章③ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 廊下を進むごとに、冷気はさらに濃くなった。足元の石畳はところどころひび割れ、そこから黒い草のようなものが伸びている。誰も手入れをしていないはずのそれは妙に瑞々しく、まるで生きた血 …
第四章 アイアイの大冒険 第四章② Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ ツヴェイの背から降り立った一行は、ひんやりとした石畳に足を置いた。 そこはすでに“廃墟の学舎”だった。学舎の外庭はひどく冷えており、足裏から伝わる石畳は昼間だというのに夜の …
第四章 アイアイの大冒険 第四章① Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ ツヴェイの広い背にしがみつきながら、アイアイは息を詰めていた。 翼がひとたび羽ばたくたびに、視界の端で村の屋根が遠ざかり、広場に残された自分の銅像が豆粒のように小さくなる。 …
第三章 アイアイの大冒険 第三章⑫【第三章 完】 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 広場の中央に立ち尽くすアイアイは、呼吸が浅くなっていくのを自覚していた。 眼前にそびえる銅像は、自分の姿を模したもの。金属の表面は長い年月に風雨を受け、ところどころ緑青を帯 …
第三章 アイアイの大冒険 第三章⑪ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 沈黙ののち、ダガールは深く息を吐いた。まるで胸の奥に溜まった何年分もの重さを吐き出すように。「……わかっているんだ。もちろん、俺だってわかっている。村が“あの日”から動いていない …
第三章 アイアイの大冒険 第三章⑩ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 光に満たされた視界がゆっくりと晴れていく。アイアイはまぶしさに耐えるように瞬きを繰り返し、ようやく輪郭を取り戻した世界を見つめた。 そこには、確かに村があった。村以外の風景 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑨【第一章 完】 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 誰かが、図書館の前で立ち止まっていた。アイアイはその建物を見て、思わず駆け寄った。 「……図書館! 情報があるかもしれない!」 しかし扉には、デバ石の端末と、小さな文 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑧ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 王都ザラーリンの中へ足を踏み入れたとたん、空気が変わった。 外の風の流れとは違う、どこか止まったような空気。街の中心部に近づくにつれ、その静けさは重さを帯びていった。 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑦ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ くぐもったような声が、草むらの向こうから響いた。 アイアイはびくりとして顔をあげた。 アイアイは暗がりから焚き火の明かりの中に入ってきた人物に急いで焦点を合わせた。 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑥ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイアイは、自分がまだ子どもで一人旅をしているのを不審に思って入城を断られたのだと思うことにした。デバ石のことは適当なことを言って追い払うための口実だったのだと。思えば、入城を待 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑤ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 夕暮れが近づくころ、丘の向こうにようやくザラーリンの城壁が姿を現した。 陽の光を浴びて赤く染まる石造りの壁は、高く、厚く、どこか冷たさを感じさせるような重々しい存在 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章④ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ なにかの聞き間違いだと思ってアイアイは特に気にしなかったが、まわりを見回したことで別のあることが気になった。 「おばあさんは、デバ石はもっていないんですか?」 この世 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章③ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 川を渡り、午後になったころ、小さな林を抜けた先で、一本の煙が空に向かって細く立ち上っているのが見えた。 近づいていくと、そこには旅装束をまとった年老いた老婆が腰を下ろし、焚 …
第一章 アイアイの大冒険 第1章② Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ それから少し進んだ先で、小さな川が現れた。細く蛇行するその流れは透明で、底の石がはっきりと見えるほどだった。 川縁に腰を下ろしたアイアイは、ポケットをさぐり、カラスの嘴から …
第一章 アイアイの大冒険 第一章① Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 水平線の向こうへとつづく一本の街道を、ひとりの少年が歩いていた。 朝からの霧はまだ晴れておらず、見渡す先には、かすんだ丘の稜線がぼんやりと浮かんでいた。上空には1羽のカラス …
第五章 アイアイの大冒険 第五章23 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 大階段を降りるアイルの目線にはあるものが見えてきた。コルヴィンは何かにおびえたようにうつむき足元だけを見ている。アイルは目線の先、階段を降りた先に、金属の硬い冷たさを感じていた。 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章㉒ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 大階段へ向かう通路は、恐ろしいほどに冷たく澄んでいた。アイルは胸にモヤモヤを抱え、コルヴィンを引っ張るようにして早足で廊下を進んだ。 「ア、アイルさん!そんな急がなくても… …
第五章 アイアイの大冒険 第五章㉑ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルは しんと静まり返った廊下を忍び足で進んだ。モヤモヤを胸に抱えながら、心臓が落ち着かないまま早鐘を打っている。「……シーカー、近くにいるの……?」問いかけると、モヤモヤは光 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑳ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルは診断室の白い天井を見上げたまま、先程、聞いた小さな声を思い返していた。 ――「アイル…ダイジョブ…ブブブ…ダイジョブ」 胸のあたりで光がふるえる。膝に乗ったモ …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑲ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 扉の向こう、図書室の空気が揺れている。扉の向こうの空間に、羽音が静かに混じっていく。 「……来ましたね。ふー……探しています」スペーラーが扉に耳を当てて言った。 「ど …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑱ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ シーカーは、ただ走っていた。どこへ向かっているのかもわからないまま、ただ追い立てられるままに。 背後から、羽ばたきと金属の擦れる音が迫ってくる。 「侵入者、北側回廊に移動! …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑰ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 光の中を漂い、浮いた体は何度、回転したのだろうか。眼前を覆いつくす青白い光がはじけた瞬間、シーカーは背中から着地した。痛みを堪え、勢いよく体を起こし、あたりを見回す。 胸が …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑯ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 「そうです。その仲間の名前がシーカーです…」アイルは泣き出しそうな声とともに言った。 簡易診断室は、白い石壁に囲まれた静かな部屋だった。天井の淡い光が脈打ち、部屋全体に柔ら …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑮ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルはメリウス先生のあとを歩いていた。学舎の廊下はひんやりと冷たく、まるで建物そのものが静かに息をしているようだった。 壁際には古い書物と器具が並び、棚には研究員たちが扱 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑭ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 落下する、というよりも――浮かんでいた。重力の感覚が消え、足も腕も、身体そのものの輪郭さえ曖昧になる。光だけが流れ、色だけが揺れ、耳の奥で風のようなものが鳴った。 やがて― …