第四章 アイアイの大冒険 第四章⑰ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 広間の台座へと、アイアイとグリグリは勢いよく駆け込んだ。台座周辺に足を踏み入れた瞬間、空気が張り詰め、胸の奥が押し潰されそうになる。台座は青白い光を脈打ち、床にたまった薄霧がその …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑯ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 手を取り合ったまま、四人は保守用通路をさらに奥へ進んだ。壁の銅管はところどころで青白く脈動し、その明滅が足もとを不規則に照らす。汗ばむ掌の温度まで明滅に合わせ増幅して返ってくるよ …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑮ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 保守用通路は、導力室の整然とした銅管の輝きとはまるで別世界だった。通路の幅は人ひとりがやっと通れるほどで、壁面には苔と湿った泥が張り付き、ところどころから地下水が滴り落ちていた。 …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑭ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 中庭の扉を押し開けた先は、湿った石の匂いとはまったく異なる空気が満ちていた。壁や床には金属の管や銅線のようなものが縦横に這い、まるで血管のように室内を埋め尽くしている。そこは古い …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑬ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 「ほら、食べ物だよ……」アイアイとグリグリが差し出した干し肉を、オイラーはぱっと目を輝かせて受け取った。 バリバリ、バリバリ。あまりに豪快にかみ砕く音が、湿った地下通路に響 …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑫ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 四人は大空洞の縁に沿った細い通路を進んでいた。頭上から滴る水滴が石に落ちるたび、通路全体が低く鳴り響き、まるで巨大な生き物の心臓音のように聞こえる。 「……せ、狭い……ひぃ …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑪ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 瓦礫をくぐり抜け、四人は地下通路に身を滑り込ませた。そこは背をかがめなければ進めないほど狭く、湿気がひどく、空気は息苦しいほど重かった。崩れた石と泥の匂いが鼻を刺し、遠くで水滴が …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑩ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 猫の使者は、白い人形がゆっくりとアイアイとグリグリの方角へ進んでいくのを見つめ、低くつぶやいた。「……なるほど...そういうことなのですね。」その言葉に、アイアイとグリグリは顔を …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑨ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ しばしの休息のあと、四人は意を決して小講義室の扉を押し開けた。廊下の先には、まだひんやりとした冷気と、どこかでざわめくような気配が漂っていた。アイアイの胸の奥ではデバ石が微かに震 …
第四章 アイアイの大冒険 第四章⑧ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 小講義室の薄明かりの中、オイラーはあくび混じりに目をこすりながら、唖然とするアイアイたちに向けて、もう一度言った。「だからさ、手伝ってやってもいいけど……食べ物はちゃんと出してよ …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑨【第一章 完】 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 誰かが、図書館の前で立ち止まっていた。アイアイはその建物を見て、思わず駆け寄った。 「……図書館! 情報があるかもしれない!」 しかし扉には、デバ石の端末と、小さな文 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑧ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 王都ザラーリンの中へ足を踏み入れたとたん、空気が変わった。 外の風の流れとは違う、どこか止まったような空気。街の中心部に近づくにつれ、その静けさは重さを帯びていった。 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑦ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ くぐもったような声が、草むらの向こうから響いた。 アイアイはびくりとして顔をあげた。 アイアイは暗がりから焚き火の明かりの中に入ってきた人物に急いで焦点を合わせた。 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑥ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイアイは、自分がまだ子どもで一人旅をしているのを不審に思って入城を断られたのだと思うことにした。デバ石のことは適当なことを言って追い払うための口実だったのだと。思えば、入城を待 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章⑤ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 夕暮れが近づくころ、丘の向こうにようやくザラーリンの城壁が姿を現した。 陽の光を浴びて赤く染まる石造りの壁は、高く、厚く、どこか冷たさを感じさせるような重々しい存在 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章④ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ なにかの聞き間違いだと思ってアイアイは特に気にしなかったが、まわりを見回したことで別のあることが気になった。 「おばあさんは、デバ石はもっていないんですか?」 この世 …
第一章 アイアイの大冒険 第一章③ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 川を渡り、午後になったころ、小さな林を抜けた先で、一本の煙が空に向かって細く立ち上っているのが見えた。 近づいていくと、そこには旅装束をまとった年老いた老婆が腰を下ろし、焚 …
第一章 アイアイの大冒険 第1章② Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ それから少し進んだ先で、小さな川が現れた。細く蛇行するその流れは透明で、底の石がはっきりと見えるほどだった。 川縁に腰を下ろしたアイアイは、ポケットをさぐり、カラスの嘴から …
第一章 アイアイの大冒険 第一章① Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 水平線の向こうへとつづく一本の街道を、ひとりの少年が歩いていた。 朝からの霧はまだ晴れておらず、見渡す先には、かすんだ丘の稜線がぼんやりと浮かんでいた。上空には1羽のカラス …
第五章 アイアイの大冒険 第五章23 Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 大階段を降りるアイルの目線にはあるものが見えてきた。コルヴィンは何かにおびえたようにうつむき足元だけを見ている。アイルは目線の先、階段を降りた先に、金属の硬い冷たさを感じていた。 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章㉒ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 大階段へ向かう通路は、恐ろしいほどに冷たく澄んでいた。アイルは胸にモヤモヤを抱え、コルヴィンを引っ張るようにして早足で廊下を進んだ。 「ア、アイルさん!そんな急がなくても… …
第五章 アイアイの大冒険 第五章㉑ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルは しんと静まり返った廊下を忍び足で進んだ。モヤモヤを胸に抱えながら、心臓が落ち着かないまま早鐘を打っている。「……シーカー、近くにいるの……?」問いかけると、モヤモヤは光 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑳ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルは診断室の白い天井を見上げたまま、先程、聞いた小さな声を思い返していた。 ――「アイル…ダイジョブ…ブブブ…ダイジョブ」 胸のあたりで光がふるえる。膝に乗ったモ …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑲ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 扉の向こう、図書室の空気が揺れている。扉の向こうの空間に、羽音が静かに混じっていく。 「……来ましたね。ふー……探しています」スペーラーが扉に耳を当てて言った。 「ど …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑱ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ シーカーは、ただ走っていた。どこへ向かっているのかもわからないまま、ただ追い立てられるままに。 背後から、羽ばたきと金属の擦れる音が迫ってくる。 「侵入者、北側回廊に移動! …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑰ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 光の中を漂い、浮いた体は何度、回転したのだろうか。眼前を覆いつくす青白い光がはじけた瞬間、シーカーは背中から着地した。痛みを堪え、勢いよく体を起こし、あたりを見回す。 胸が …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑯ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 「そうです。その仲間の名前がシーカーです…」アイルは泣き出しそうな声とともに言った。 簡易診断室は、白い石壁に囲まれた静かな部屋だった。天井の淡い光が脈打ち、部屋全体に柔ら …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑮ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ アイルはメリウス先生のあとを歩いていた。学舎の廊下はひんやりと冷たく、まるで建物そのものが静かに息をしているようだった。 壁際には古い書物と器具が並び、棚には研究員たちが扱 …
第五章 アイアイの大冒険 第五章⑭ Hikasawa Kikori ヒカサワキコリブログ 落下する、というよりも――浮かんでいた。重力の感覚が消え、足も腕も、身体そのものの輪郭さえ曖昧になる。光だけが流れ、色だけが揺れ、耳の奥で風のようなものが鳴った。 やがて― …