アイアイの大冒険 第五章36
光の塊の前で、アイルは、立ち尽くしていた。
モヤモヤは、光の縁に、ほとんど触れそうな距離で、ふわりと揺れている。
「……どう、すればいい…なにがどうなっているの…?」
アイルの声は、洞窟の奥で、小さく反響した。
触れていいのか。引き離すべきなのか。
それとも――何もせず、ただ見守るべきなのか。
答えは、みつかりそうになかった。
そのとき。
「――なるほど……」
静かな声が、背後から響いた。
三人は、声のした方を暗がりの中から凝視した。
一人の人物が、光の中からゆっくりと歩み出てくる。
長い外套。穏やかな佇まい。
その瞳だけが、異様なほどに、澄んでいた。
「……メリウス……学長……?」
シーカーが、信じられないように呟く。
「無事…だったのですね…」
スペーラーも、警戒を解かないまま、視線を向ける。
メリウスは、軽く頷き、三人の前まで来て――
光の塊を、見上げた。

「……いやはや。いったいこれは何なのだろうか…ドラゴンの奴め…何がしたかったのか」どこか弾むような声音だった。
「これは……」
言葉を選ぶように、間を置く。
「この世界の“中枢”に近いものかもしれない。世界を支える根。
あるいは――世界そのものの心臓、とでも言うべきもの」
アイルの胸が、どくりと鳴った。
「……そんな……」
「アイル。私にも確証はないよ…」
メリウスは、すぐに続ける。
「私にも、どうしてこのような状況になったのかさえ、まったくわからない。どうやらドラゴンも消えてしまったらしい……」
その視線が、モヤモヤへと向く。
「ただ、ある古い『伝承』がある…」
穏やかな口調だった。
「“『神族』が、『世界の中心』と結び合うとき、世界は、その願いに応える”――と」
「……改変……ってことですか」
スペーラーが、低く問う。
「ああ。世界のあり方そのものを、書き換えることも可能だと言われている…」
「そして、今、ここは『伝承』と非常によく似た『状況』だ…」
一瞬、沈黙が落ちた。
メリウスが、ふっと微笑む。
「私もいち学徒として、興味が尽きないよ。
こんな『状況』を前にして、何もせずに立ち去るなど……正直、惜しい」
そして、ゆっくりと、アイルを見る。
「アイル。君は、この子――モヤモヤと、心を通わせていたね」
アイルは、息を呑んだ。
「君の言葉なら、この世界が、なにか応えてくれるかもしれない」
優しく。だが、どこか高ぶっているような声だった。
「何か、願ってみてはくれないか?」
光が、微かに、脈打つ。
モヤモヤが、アイルの方を、ちらりと向いた気がした。
「……わたし……」
アイルは、唇を噛む。
何を願う?何を、言えばいい?
この世界で。
シーカーやスペーラーがいて。モヤモヤがいて――
悩んで、体が硬直しそうだった。メリウスは以前、優しい瞳でアイルを見つめ続けている。
気づけば、モヤモヤもアイルのことをまっすぐと凝視していた。
願い…それは…。
アイルの口から言葉が漏れそうになった‥
そのとき。
「――待て、ヘルマン。早まるな」
メリウスの鋭い声が、空気を切り裂いた。
振り向いた先。
瓦礫の影から、複数の影が、現れる。
先頭に立っていたのは――
警部長、ヘルマンだった。
その背後には、 数名の武装した部下たち。
ヘルマンの手には、見慣れない器具が握られている。
淡く、光を帯びた――なにかの装置。
「こいつらは危険だ」

ヘルマンは、光の塊と、三人を交互に見据えた。
「この事態が、こいつらの仕業かどうかは、わからない」
一拍。
「だが、こいつらが来てからおかしなことばかりだ――ここまで来たら…疑わしきは、排除する」
冷たい決断だったが、ヘルマンの立場、ヘルマンが得ることができた情報からすれば英断だったのだろう。
「アイル、シーカー、スペーラー。お前たちを、アルンデスカイへ――
強制送還する」
光が、再び、強く脈打った。
モヤモヤが、 不安定に、揺れる。
アルンデスカイに強制送還――
アイルの中で、その言葉は受け止めきれないほど、大きな響きとうねりをもっていた。

