アイアイの大冒険 第五章35
通路の先は、いつの間にか“道”ではなくなっていた。
石壁は途切れ、天井も、床も、輪郭を失って、何かのために掘られた穴を進んでいく。
ただ――進んでいく先に、 暗闇の奥に、うっすらと光が見えてきた。

「……なに、あれ……」
アイルの声は、 思ったよりも小さく、震えていた。
近づくにつれてその巨大さがわかってきた。
それは、炎ではない。
魔法陣でもない。
照明でも、結晶でもなかった。
巨大な巨大な光の塊。
それは果てしない空洞の底に存在していた。
脈打つように、ゆっくりと、明滅している。
さらに近づくにつれて、胸の奥が、じわりと温かくなった。
怖いはずなのに。逃げたいはずなのに。
(……なに、これ……)
理由もなく、 懐かしいと感じてしまう。
「……ふー……」
スペーラーが、無意識に息を吐いた。
「……これは…なんでしょう?……まさか…俗に言う”世界の中心”…」
言葉を選びながら、それ以上、踏み込まない。
シーカーは、ただ黙って、光を見つめていた。
「……なあ……」
低く、呟く。
「これ……俺たちが、踏み込んでいい場所じゃないだろ……」
誰も返事はしなかった。
シーカーが続ける。
「位置関係的に見て…ここってあのドラゴンが開けた穴の底ってことですよね…。この光があのドラゴンの目的ってことですかね?」
「ふう。先ほどのドラゴンに目的があるようには見えまえんでしたがね…」
吐いて捨てるようにスペーラーが言葉を返した。
カラス族の警備兵たちが、三人を光の手前で止めた。
それ以上は動こうとしない。
……いや。
動く必要がなくなったのだ。
おそらく、カラス族の任務はそこで完了したのだろう。
アイルは眼前に広がる光の塊の中に違和感を感じた。
「……モヤ……」
アイルの喉から、名前が、こぼれ落ちた。
光の塊の前。
その“縁”とも呼べない場所に――
モヤモヤが、いた。
ふわり、と浮いている。
光に目が慣れてくると、 いつもより、はっきりした輪郭をしているように見える。
だが、いつもとは何か表情が違う。
アイルたちの方を見ている……はずなのに、
視線が、合わない。
まるで――
光のほうに、意識を引かれているみたいだった。

「……モヤモヤ……?」
呼びかける。
返事は、ない。
それでも、
モヤモヤは、そこにいる。
アイルが一歩、前に出た。
拘束具が、わずかに音を立てる。
カラス族たちから止められなかった。
カラス族は、一切、動かなかった。
光の塊が、わずかに――強く脈打つ。
ドクン。
心臓の鼓動と、重なった気がした。
(……あ……)
胸の奥から、言葉にならない感情が、浮かび上がる。
怖かった。苦しかった。
閉じ込められるのは、嫌だった。
モヤモヤも何かに囚われているのだろうか、
モヤモヤとは出会ったばかりでわからないことばかりだが、アイルには、モヤモヤと自分が重なるような感覚があった。
怖かった。苦しかった。
もうこれ以上、何かに閉じ込められるのは、嫌だった。
でも――それ以上に…今は。
……ここに、いたい……
シーカーやスペーラーや、モヤモヤがいるこの世界に…
その想いが、はっきりと形を持った瞬間。
モヤモヤが、ふわりと、揺れた。
そして光の塊へ――ほんの、わずかに。
近づいた。
「……っ」
スペーラーが、息を呑む。
シーカーが、叫ぼうとして――
声にならなかった。
光が、 応えたように、強く輝く。
その中心で、何かが――噛み合ってしまった。
アイルは、自分の中で、何かが“戻らない”位置を越えたのを、
はっきりと感じていた。
理由は、わからない。
だが――
もう、この光と、モヤモヤと、 自分は、無関係ではいられない。
そんな確信だけが、胸の奥に、静かに沈んでいった。

