第五章

第五章

アイアイの大冒険 第五章⑭

落下する、というよりも――浮かんでいた。重力の感覚が消え、足も腕も、身体そのものの輪郭さえ曖昧になる。光だけが流れ、色だけが揺れ、耳の奥で風のようなものが鳴った。やがて――ふわり、と何か柔らかいものが全身を包んだ。「……っ、ん……?」アイル...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑬

静寂を破ったのは、スペーラーのため息だった。「えー…最良のパターン、転送装置。最悪のパターン、処刑装置……ふー」「ふーっじゃないですって! スペーラーさん!!」シーカーの大声が響き、シーカーはスペーラーの方に向き直って今にも泣き出しそうな顔...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑫

朝靄の残る霧丘を、三人は歩いていた。夜の冷気がまだ地面に残っていて、草の先に露が光る。遠くで鳥の声がした。アイルは深呼吸をして、胸の奥まで冷たい空気を吸い込んだ。「朝っていいね。昨日のことが、いったん全部リセットされる感じ」「ふー……そんな...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑪

夜が深まるにつれ、霧丘むきゅうはさらに静かになった。灯りがテントの内部を冷たく照らし、出入口の向こうで木々が擦れる音がときどき止み、また遠のく。アイルのテントには、ランプの光とは別に、ぼんやりとした光が満ちていた。モヤモヤがいる。幼児ほどの...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑩

霧はいつの間にか、白から淡い金色に変わっていた。光の粒が漂い、風もなく、音もない。まるで世界全体が息を潜めているようだった。その中心に――それはいた。幼児ほどの大きさで、輪郭を持たない。モヤのように揺らめき、時折、光が脈動する。けれど、その...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑨

翌朝、肌を突き刺すような冷気が詰所を包んでいた。外はまだ静かで、風の音もない。アイルは食堂の片隅で荷物をまとめていた。デバ石を布に包み、ポーチの底へ押し込む。「今日はどんな一日になるかな」独り言に、背後から声が返る。「できれば、昨日より静か...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑧

詰所の中は、外から見たよりもずっと雑然としていた。壁際には積み上げられた木箱と書類束。通路の奥では、獣族の兵士たちが慌ただしく行き来している。アイルは目を丸くしながら、あちこちを見回した。「うわぁ……ほんとに“書類多数”だね。ここ、郵便局よ...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑦

丘を下りると、道はゆるやかな坂になっていた。空はまだ高く、雲が薄く伸びている。昼の光は柔らかく、どこか遠くの街まで届きそうに見えた。前を行く白銀の背中――スペーラーは、歩幅は落ち着いていて、足取りは迷いがない。アイルとシーカーは半歩下がって...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑥

丘の上には、まだ焦げた草の匂いが残っていた。アイルはしばらく呆然とその場に立ちつくしていたが、目の前の白銀の騎士に気づいて慌てて姿勢を正した。「えっと……助けてくれて、ありがとうございます!」アイルが頭を下げると、騎士は首をかしげるように視...
第五章

アイアイの大冒険 第五章⑤

轟音とともに、巨大な影が丘に降り立った。地面が低く唸り、砂と草が吹き上がる。アイルは思わず目を見開いた。「……きたっ!」銀の鱗、長い首、広げられた翼。絵本の中でしか見たことのないような存在が、いま目の前にいた。ドラゴンの双眸そうぼうが、まっ...