第三章

第三章

アイアイの大冒険 第三章⑫【第三章 完】

広場の中央に立ち尽くすアイアイは、呼吸が浅くなっていくのを自覚していた。眼前にそびえる銅像は、自分の姿を模したもの。金属の表面は長い年月に風雨を受け、ところどころ緑青を帯びているようだった。それでもなお凛々しい立ち姿で、村を見守るかのように...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑪

沈黙ののち、ダガールは深く息を吐いた。まるで胸の奥に溜まった何年分もの重さを吐き出すように。「……わかっているんだ。もちろん、俺だってわかっている。村が“あの日”から動いていないことを。俺だけが歳をとり、俺だけが時を失ったようだ……。それで...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑩

光に満たされた視界がゆっくりと晴れていく。アイアイはまぶしさに耐えるように瞬きを繰り返し、ようやく輪郭を取り戻した世界を見つめた。そこには、確かに村があった。村以外の風景もすべて「谷の風景」に戻っていた。門の向こう、木柵に囲まれた畑には、見...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑨

グリグリの手の中で、旧塔で見つけた“鍵”がわずかに光を放っていた。その光は装置のくぼみと共鳴するように脈打ち、青白い反射が壁や天井を淡く照らしている。アイアイは無意識に息を詰め、グリグリの動きを見守った。カチリ、と控えめな音が響く。グリグリ...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑧

轟音と土煙が入り混じる。黒い腕は十数本を超え、もはや数える意味すらなかった。そのすべてが、ダガールと猫の使者を押し潰そうと渦を巻く。「ダガールっ!下がって!」猫の使者の声も、甲高いノイズにかき消される。――もう、無理だ。アイアイは心の中で何...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑦

風が止んだかと思うと、また微かに流れ出す。それはまるで、こちらの様子をうかがうように、迷いながら谷を抜けていく風だった。「三度、曲がった先に“門”があるはず……だよね?」四人が橋を渡って分岐にたどり着いたときガルガンチュアが示したこと──『...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑥

右の崖道を選んだ一行は、風の音が少しずつ遠のいていく感覚の中で、しばらく岩の間を縫うような細道を歩いていた。ガルガンチュアの示した通り三度曲がったころ、道幅はわずかに広がり、やがて開けた空間に出る。「……ここは……?」ダガールが、誰よりも先...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑤

“鏡の穴”から現れた黒い腕──あの異形のものが霧散したあと、四人はその場にしばらく立ち尽くしていた。「本当……何だったんだ、あれ」再びアイアイが口を開いた。目を見開き、穴のあった場所を見つめている。「ぼく……あれに触れられてたら、たぶん……...
第三章

アイアイの大冒険 第三章④

焚き火の煙が、湿った空気に滲むようにして、空へと昇っていく。風は幾分落ち着いたものの、谷の奥からはまだ不規則な唸りが時おり響いていた。ダガールは荷車をそっと地面に下ろし、その脇に腰を下ろしていた。彼の背には長年の旅で磨耗した傷跡がいくつも刻...
第三章

アイアイの大冒険 第三章③

走り続けた三人がようやく峡谷に入ると、風の性質が一変した。 それまで三人の頬を撫でていたような流れが、今は岩壁にぶつかって跳ね返り、まるで意志を持つかのように三人と一体を押し戻そうとしていた。アイアイ、グリグリ、猫の使者は、身を低くしながら...