hikasawakikori

第二章

アイアイの大冒険 第二章⑦

ふたりと猫族の使者が山道を進んで数時間が経った。霧はしだいに濃くなり、あたりの景色はぼんやりと輪郭を失っていった。木々の影がゆらぎ、地面の起伏も見えにくくなる中、ただ足元の感触だけを頼りに歩を進める。「……このあたり、前に来たことがある気が...
第二章

アイアイの大冒険 第二章⑥

ふたりはコリク、猫族の使者により、記録室のさらに奥へと導かれた。新たな情報が見つかるかもしれないと王に勧められたのだ。今度はコリクもついてきた。そこは本来アクセスできない領域──王国内の端末にも接続されていない、隔絶された“記憶の死角”だっ...
第二章

アイアイの大冒険 第二章⑤

鉄のようなにおいがする扉の前で、ふたりは立ち止まった。猫族の使者は、無言のまま壁のくぼみに手を差し入れると、何かをゆっくりと押し込んだ。カチリ、と鈍い音。それだけで、重たい扉は内側へ、静かに開いていった。ぎい……という音もなく、まるで空気が...
第二章

アイアイの大冒険 第二章④

アイアイは言葉を失い、その場に立ち尽くした。 風が吹いた。だが、どこから吹いているのか、分からなかった。猫族の使者は何も言わなかった。ただ静かに、そこに立っていた。「……これ……なんなの?」アイアイの問いに、猫族の使者がちらりと振り返り、ぽ...
第二章

アイアイの大冒険 第二章③

王都では“正しさ”だけが”正しい”かのようだった。 その正しさは、甘さも、ぬくもりも、感情さえも置いてけぼりにしているように思えた。デバ石の出した正解にだけ、”正しさ”にだけ従っているように思えた。でも、それで本当に、いいのだろうか?少なく...
第二章

アイアイの大冒険 第二章②

大広間の奥には、天井近くまで伸びる棚が並んでいた。  だが、その棚には本ではなく、きらびやかな菓子箱や、空っぽのガラス瓶が所狭しと詰め込まれていた。中央に、ひとりの男がいた。ふわふわのエプロンに、真っ白な王冠。手には泡立て器と木べら。鼻の頭...
第二章

アイアイの大冒険 第二章①

ふたりは並んで、城を見上げていた。高くそびえる塔と、そのまわりを囲む丸屋根の群れ。重たい雲がその背をなでるように流れていく。王城は、まるで空そのものとつながっているようにも見えた。「きっとこの先に、何かがある気がする」アイアイがそうつぶやく...
第一章

アイアイの大冒険 第一章⑨【第一章 完】

誰かが、図書館の前で立ち止まっていた。アイアイはその建物を見て、思わず駆け寄った。「……図書館! 情報があるかもしれない!」しかし扉には、デバ石の端末と、小さな文字が浮かんでいた。“アクセス権限が確認できません。情報取得条件:未達。ご利用を...
第一章

アイアイの大冒険 第一章⑧

王都ザラーリンの中へ足を踏み入れたとたん、空気が変わった。外の風の流れとは違う、どこか止まったような空気。街の中心部に近づくにつれ、その静けさは重さを帯びていった。朝焼けが街の壁を淡く染めていく。瓦屋根の家々、高く積まれた石垣、道ばたの水桶...
第一章

アイアイの大冒険 第一章⑦

くぐもったような声が、草むらの向こうから響いた。 アイアイはびくりとして顔をあげた。アイアイは暗がりから焚き火の明かりの中に入ってきた人物に急いで焦点を合わせた。ぼやけた焦点から一瞬でピントをあわせた先にいたのは、グリグリだった。両こぶしを...