hikasawakikori

第三章

アイアイの大冒険 第三章⑦

風が止んだかと思うと、また微かに流れ出す。それはまるで、こちらの様子をうかがうように、迷いながら谷を抜けていく風だった。「三度、曲がった先に“門”があるはず……だよね?」四人が橋を渡って分岐にたどり着いたときガルガンチュアが示したこと──『...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑥

右の崖道を選んだ一行は、風の音が少しずつ遠のいていく感覚の中で、しばらく岩の間を縫うような細道を歩いていた。ガルガンチュアの示した通り三度曲がったころ、道幅はわずかに広がり、やがて開けた空間に出る。「……ここは……?」ダガールが、誰よりも先...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑤

“鏡の穴”から現れた黒い腕──あの異形のものが霧散したあと、四人はその場にしばらく立ち尽くしていた。「本当……何だったんだ、あれ」再びアイアイが口を開いた。目を見開き、穴のあった場所を見つめている。「ぼく……あれに触れられてたら、たぶん……...
第三章

アイアイの大冒険 第三章④

焚き火の煙が、湿った空気に滲むようにして、空へと昇っていく。風は幾分落ち着いたものの、谷の奥からはまだ不規則な唸りが時おり響いていた。ダガールは荷車をそっと地面に下ろし、その脇に腰を下ろしていた。彼の背には長年の旅で磨耗した傷跡がいくつも刻...
第三章

アイアイの大冒険 第三章③

走り続けた三人がようやく峡谷に入ると、風の性質が一変した。 それまで三人の頬を撫でていたような流れが、今は岩壁にぶつかって跳ね返り、まるで意志を持つかのように三人と一体を押し戻そうとしていた。アイアイ、グリグリ、猫の使者は、身を低くしながら...
第三章

アイアイの大冒険 第三章②

「アイルの……?」アイアイの声が、反射的に漏れた。その名前は、母の名前であり、映像の少女の名前でもある。同一人物であることは本来あり得ないが、どちらにしても今のアイアイにとって、その名が重要であることに変わりはなかった。そして、あらためてそ...
第三章

アイアイの大冒険 第三章①

その姿は、ゆっくりと近づいてきた。空の高みから、まるで滑空するかのように。ゆっくりと翼を羽ばたきながら。アイアイはその異様な静けさに、息を呑んだ。ドラゴン──その巨大な影が彼らの上空でぴたりと静止したとき、風が一気に冷たくなった。グリグリが...
第二章

アイアイの大冒険 第二章⑩【第二章 完】

誰かが扉を閉じる音もしなかったのに、気づけば階段の上はまた闇に閉ざされていた。 “シーカー”が残した余韻は、石壁に染み込むように、その場にじっと留まっている気がした。アイアイは部屋の中央にある石の台座に近づき、その表面をそっとなでた。先ほど...
第二章

アイアイの大冒険 第二章⑨

部屋の隅に腰を下ろしたアイアイは、両手で手紙をそっと開いた。紙は古びており、折れ目は何度も読み返されたようにすり減っていた。その文字は、小さく、丁寧だった。どこかで見覚えのある、やさしく、けれどどこか焦りも滲ませた筆跡。『これを見つけた人へ...
第二章

アイアイの大冒険 第二章⑧

少女の声が消えたあと、部屋はしんと静まり返った。誰も言葉を発せず、ただ自分の呼吸音が耳に残る。グリグリが、塔の壁に映っていた“窓”のあった場所をそっと触れた。しかしそこにはもう何もなかった。「……さっきの……アイルだったのかな」アイアイがつ...