hikasawakikori

第四章

アイアイの大冒険 第四章⑤

グリグリの叫び声が広間にこだまする中、二体のウーセルは同じ速さで歩を進めてきた。のっぺりとした顔は感情を持たぬはずなのに、その迫る気配は生々しい恐怖となって三人の喉を締めつけた。アイアイは台座に目をやった。デバ石がまだ反応している。霧のよう...
第四章

アイアイの大冒険 第四章④

白い人形が透けるように消え去った後、廊下は深い沈黙に包まれた。冷気はなお残り、空気は張りつめたままだった。ついさっきまで異形の存在が横たわっていたはずの場所を見つめても、そこにはただの石畳が広がっているだけだった。だが、三人の胸には「確かに...
第四章

アイアイの大冒険 第四章③

廊下を進むごとに、冷気はさらに濃くなった。足元の石畳はところどころひび割れ、そこから黒い草のようなものが伸びている。誰も手入れをしていないはずのそれは妙に瑞々しく、まるで生きた血管が床を這っているかのように見えた。グリグリは顔をしかめ、アイ...
第四章

アイアイの大冒険 第四章②

ツヴェイの背から降り立った一行は、ひんやりとした石畳に足を置いた。そこはすでに“廃墟の学舎”だった。学舎の外庭はひどく冷えており、足裏から伝わる石畳は昼間だというのに夜の墓石のように冷たかった。蔦が壁を覆い、高くそびえていたはずの塔は半ば崩...
第四章

アイアイの大冒険 第四章①

ツヴェイの広い背にしがみつきながら、アイアイは息を詰めていた。翼がひとたび羽ばたくたびに、視界の端で村の屋根が遠ざかり、広場に残された自分の銅像が豆粒のように小さくなる。冷たい風は頬を叩きつけ、耳の奥で唸り声のように鳴り響いた。「お、おちる...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑫【第三章 完】

広場の中央に立ち尽くすアイアイは、呼吸が浅くなっていくのを自覚していた。眼前にそびえる銅像は、自分の姿を模したもの。金属の表面は長い年月に風雨を受け、ところどころ緑青を帯びているようだった。それでもなお凛々しい立ち姿で、村を見守るかのように...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑪

沈黙ののち、ダガールは深く息を吐いた。まるで胸の奥に溜まった何年分もの重さを吐き出すように。「……わかっているんだ。もちろん、俺だってわかっている。村が“あの日”から動いていないことを。俺だけが歳をとり、俺だけが時を失ったようだ……。それで...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑩

光に満たされた視界がゆっくりと晴れていく。アイアイはまぶしさに耐えるように瞬きを繰り返し、ようやく輪郭を取り戻した世界を見つめた。そこには、確かに村があった。村以外の風景もすべて「谷の風景」に戻っていた。門の向こう、木柵に囲まれた畑には、見...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑨

グリグリの手の中で、旧塔で見つけた“鍵”がわずかに光を放っていた。その光は装置のくぼみと共鳴するように脈打ち、青白い反射が壁や天井を淡く照らしている。アイアイは無意識に息を詰め、グリグリの動きを見守った。カチリ、と控えめな音が響く。グリグリ...
第三章

アイアイの大冒険 第三章⑧

轟音と土煙が入り混じる。黒い腕は十数本を超え、もはや数える意味すらなかった。そのすべてが、ダガールと猫の使者を押し潰そうと渦を巻く。「ダガールっ!下がって!」猫の使者の声も、甲高いノイズにかき消される。――もう、無理だ。アイアイは心の中で何...