hikasawakikori

第五章

アイアイの大冒険 第五章④

その日の朝、郵便局は少し慌ただしかった。チワワ局長が新聞を広げたまま、奥の部屋から飛び出してきた。「アイル、シーカー! 二人ともいるか!」局長の声は、いつになく低く響いていた。「北の街道で郵便馬車が立ち往生してる。山風が強くて、荷が散ったら...
第五章

アイアイの大冒険 第五章③

村の広場は、昨日の喧騒が嘘のように静まり返っていた。朝露にぬれた石畳の上、アイルはひとり、建てられたばかりの銅像を見上げていた。 二体目の自分。にっこりと笑っているウサギ族の少女――自分そっくりのその姿を見ていると、どこかくすぐったくて、少...
第五章

アイアイの大冒険 第五章②

翌朝、ディグレンチェ村は、ふだんより少しだけ賑やかだった。郵便局の掲示板に、紙飾りのついた大きな告知が貼られていた。〈新人配達ウィーク 参加者募集〉――“村じゅうを一日で回れる人は誰だ?”アイルはそれを見上げ、胸が高鳴るのを感じた。「わたし...
第五章

アイアイの大冒険 第五章①

朝の光が、丘の上の塔の鐘をやさしく照らしていた。大草原の真ん中に位置する『ディグレンチェ村』は、まだ寝息を立てているように静かだった。草原を流れる風が村をやさしくなでるように過ぎていく。石畳の路地に並ぶ家々の屋根には露が光り、煙突から細い煙...
第四章

アイアイの大冒険 第四章㉑ 【第四章 完】

アイルは、しばらくのあいだ何も言わずに立っていた。光が消えたあとも、まるで夢の続きの中にいるような表情だった。やがて、彼女は小さく首を傾げて口を開いた。「……ここは、どこ? あなたたちは……だれ?」その声は、確かに映像で聞いたアイルのものだ...
第四章

アイアイの大冒険 第四章⑳

大空洞のざわめきから完全に遠ざかると、通路には信じられないほどの静けさが戻っていた。息を整えるたびに、胸の奥に新しい空気が満ちていく。暗闇を抜けた先に、ようやくかすかな青白い光――広間へ続く導線の光が見えた。アイアイたちは無言のまま顔を見合...
第四章

アイアイの大冒険 第四章⑲

爆発の余韻が消え、しばらくしてから耳に静寂が戻ってきた。通路のあちこちで火薬の燃え残りがくすぶり、小さな炎がじりじりと床を照らしていた。赤橙の揺らめきが、暗闇の通路に不気味な生命のような影を踊らせている。「……床が……」アイアイが恐る恐る前...
第四章

アイアイの大冒険 第四章⑱

オイラーをのぞく三人には希望が見えていなかった。ここから数分後には現実化するであろうウーセルたちの到達で、自分たちはどうなってしまうのかという想像が頭をよぎる。それは恐怖の想像でしかなく、今、このとき、気絶しているオイラーのことがうらやまし...
第四章

アイアイの大冒険 第四章⑰

広間の台座へと、アイアイとグリグリは勢いよく駆け込んだ。台座周辺に足を踏み入れた瞬間、空気が張り詰め、胸の奥が押し潰されそうになる。台座は青白い光を脈打ち、床にたまった薄霧がその光と共鳴するかのように揺らめいていた。明らかに周辺とは違う冷た...
第四章

アイアイの大冒険 第四章⑯

手を取り合ったまま、四人は保守用通路をさらに奥へ進んだ。壁の銅管はところどころで青白く脈動し、その明滅が足もとを不規則に照らす。汗ばむ掌の温度まで明滅に合わせ増幅して返ってくるようで、不思議な感覚になる。誰もが握る手を離せなかった。やがて通...