アイアイの大冒険 第四章⑩

第四章

猫の使者は、白い人形がゆっくりとアイアイとグリグリの方角へ進んでいくのを見つめ、低くつぶやいた。

「……なるほど…そういうことなのですね。」

その言葉に、アイアイとグリグリは顔を上げる。だが猫の使者はそれ以上は言わず、外套の内から素早く縄を取り出すと、倒れたまま這い進もうとする人形の手足に絡めていった。

ウーセルは抵抗するでもなく、のっぺりとした顔をこちらに向けることもなく、ただゆっくりと床を擦るように動こうとしていた。縄で縛られると、奇妙にぎしぎしと音を立てて不気味に身を捩った。

「うわぁっ!? な、なんでここにウーセルがいるんだよ!使者さんがやっつけてくれたんじゃないの!」

ようやく白い人形の存在を思い出したかのように、グリグリが背をのけぞらせて悲鳴を上げた。

「油断は禁物ですよ……」

猫の使者が呆れたように返すと、グリグリは尻尾を逆立てながら
「こんなに近くまで来てるとは思わなかったんだよ!」と必死に言い訳をした。

その間に、部屋の奥を探っていたアイアイが声を上げた。
「ここ……! この扉、地下への入口だ!」

崩れかけた壁際に、半ば傾いた古い木扉が埋もれるように立っていた。表面は湿気で黒ずみ、今にも崩れ落ちそうに見える。

アイアイとグリグリが両手で押すと、ギィィ、と嫌な音を立てて少し開いた。しかし重く、動かすたびにミシミシと不吉な音が鳴った。

「壊れそうだよ……大丈夫なのこれ……」

グリグリの不安げな声に、アイアイも一瞬ためらったが、覚悟を決めて大きく体重をかけた。

その瞬間――バキィィンッ!と乾いた音を立てて扉が開き、同時に入口付近の天井の梁が崩れ落ちた。

――ドゴォォォン!
石と木片が轟音とともに崩れ、粉塵が部屋中に舞い上がる。
三人は思わず腕で顔を覆いながら身を伏せた。

「っ……!」
しばらくして粉塵が収まると、扉の向こうには瓦礫で半ば塞がれた通路が現れていた。隙間は狭いが、身を屈めれば人一人が通れる程度の穴が残っている。

猫の使者は冷静に崩れた瓦礫を見つめ、低く言った。
「……今は進めそうですが、この先でまた同じことが起これば命取りになります。無謀に踏み込めば閉じ込められるかもしれません」
警告するその声に、場の空気が一気に重くなる。

そのとき、オイラーがのそりと立ち上がり、何の迷いもなく再び床に身を沈めた。
「ちょっと待ってて……」

土煙を上げながら潜り込み、しばらくして、地面の下からコン、コン、コンと一定のリズムで音を鳴らしているのが聞こえた。『今回は長めに潜ってるな』とアイアイがぼんやり考えていると、別の場所からひょっこりと顔を出した。

「……うん。大丈夫そうだよ。地下通路全体はしっかりしてる。崩れてるのは入口のここだけだね」
にこりともしない眠たげな表情で、それでも淡々とした声には確かな自信があった。

「そ、そんなことまでわかるの!?」
アイアイが驚いて声を張り上げると、オイラーは鼻をひくひくさせ、得意げに胸を張った。

「だって、おいら、オイラーだよ」
場の緊張感に似合わぬ返答に、三人はしばし呆気にとられ、妙な間が流れた。

その空気を破るように、オイラーがあくび混じりに続けた。
「……ああ、それとついでなんだけどさ。さっきの崩れる音でね……二十体くらい、こっちに向かってきてるみたい」

「ついでで、言うなぁぁぁ!」
グリグリが耳を逆立てて絶叫し、アイアイも思わず肩を震わせた。

猫の使者が短く息を吐き、声を低くした。
「……議論している暇はないようですね。すぐに入るしかない」

四人は互いに顔を見合わせ、大きくうなずいた。

もはや迷っている時間はなかった。

崩れた瓦礫を慎重に乗り越え、暗い地下通路の闇へと、彼らは急ぎ足で身を投じていった。

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