アイアイの大冒険 第四章⑧

第四章

小講義室の薄明かりの中、オイラーはあくび混じりに目をこすりながら、唖然とするアイアイたちに向けて、もう一度言った。

「だからさ、手伝ってやってもいいけど……食べ物はちゃんと出してよね。これが条件」

グリグリは耳をピンと立てて大げさに叫んだ。
「えぇぇ!? なにそれ! 命がけの状況で条件が“食べ物”!? 普通そこは“お宝を半分よこせ”とかじゃないの!?」

その声に、張り詰めていた空気がわずかに和らぎ、アイアイの口元にも思わず笑みが浮かんだ。

「……変わったやつだな」
猫の使者はため息をつきつつも、腰の袋から干し肉を数枚取り出して差し出した。

「オイラーさん。これでいいですか?」

オイラーはぱっと目を輝かせ、手を伸ばすと受け取った干し肉をむしゃむしゃ食べ始めた。

「んー、悪くないねぇ……でも少ないな。もっと用意してくれないと」

「おいおい!」とグリグリが突っ込み、肩を落とした。
「ほんとにただの食いしん坊じゃん……」

しかし、もぐもぐと食べている最中でも、オイラーの耳と鼻は絶えずひくひくと動いていた。
やがて食べ終わると、床を軽く爪で叩き、再び地面に潜り込んでいった。土煙が上がると同時に音もなく、オイラーの姿は消えていた。

土の下から聞こえるゴリゴリとした音がしばらく続いたかと思うと、今度は少し離れた場所から、ひょっこりと顔を出した。

「……やっぱり広間のあたり、まだ足音だらけだね。びっしりいる」

その言葉に、アイアイは拳を握りしめる。
「じゃあ、やっぱり……正面から突っ込むのは無理か」

オイラーは土を払いつつ、眠そうに続けた。
「でも、今まで意識したことなかったけど、下の方に空洞がある。少し崩れてるけど、広間の壁の裏に繋がってそうだよ。……うまく行けば、群れを避けて回り込めるかもしれない。たぶん学舎の地下通路だと思う」

猫の使者は眉をひそめた。
「地下通路ですか……崩落の危険もありますが、おそらく唯一の希望ですね」

アイアイは目を輝かせ、オイラーに身を乗り出した。
「本当!? それなら、広間に戻れる……! アイルが導こうとした理由を確かめられる!」

オイラーは再び大きなあくびをして、壁にもたれかかった。
「案内してやってもいいけど……くれぐれも食べ物は忘れないでよね。約束だから」

グリグリは頭を抱えながらも、少しだけ笑みを浮かべた。
「やれやれ……こんな頼りになるんだかならないんだか分からないやつに、未来を託すのかぁ……」

それでも、三人の胸には先ほどよりも確かな希望が芽生えていた。
広間へ戻る道が見え始めた。すぐにでも行動に移したかった。

「じゃあ、すぐにその地下通路?に連れて行ってくれる?」

グリグリのその問いにオイラーは急激に表情を曇らせてから早口で答えた。

「君ー、それは君たち3人が通れるような穴を地下通路につなげてくれって意味で言ってるよね…そんなの無理だよ。モグラ族の僕が土中に潜って進むのと、モグラ族じゃない君たちが通れるような道を土中に作るのは全く次元の違う話だよ。そんなことは僕ひとりじゃ不可能だ。」

「じゃあどうすればいいっていうの」
オイラーの話を聞いて不安になったアイアイが真っ青な顏で聞いた。

「答えは簡単だよ。地下通路だっていうんだから、地上に出入口がある。そこから地下通路に入ればいい。その入口の場所は、ちょっっと広間方面に戻る感じだけどね」

今度はグリグリが顔を真っ青にさせながら口を開いた。

「戻るの?…広間の方に……」

真っ青な顏のまま、膝から崩れ落ちるグリグリを、アイアイは真っ青な顏をして眺めていた。

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