それから少し進んだ先で、小さな川が現れた。細く蛇行するその流れは透明で、底の石がはっきりと見えるほどだった。
川縁に腰を下ろしたアイアイは、ポケットをさぐり、カラスの嘴から取った丸い石を取り出した。水面は朝の光を受けてきらきらと輝き、あたりには野花の香りが漂っていた。
そっと水の中に沈めると、表面のほこりが流され、石はさっきよりもいっそうきらめいた。ところどころ、表面の割れた隙間から七色に光る部分が見えた。
「……やっぱり、ちょっと変わってる。きれいな石……」

つぶやいた瞬間、アイアイの手から石がつるりと滑り落ち、水の中に沈んだ。
「あっ!」
アイアイはあわてて手を突っ込み、川底を探った。ひんやりと冷たい水の中に手を泳がせ、小石をかきわける。だが、見つからない。水の流れがそれをどこかへ運んでしまったのか、それとも思ったより深く沈んだのか。
「……うそ、どこいったんだ……」
探し続けて、指先がしびれてくるころ、アイアイはそっと膝に手を置いた。
アイアイはがっくりとうなだれ、それから天を仰いで大きくため息をついた。しばらくの間、アイアイは焦点をあわすことなく、ぼんやりと川へ向かって視線を投げていた。
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水面は朝の光を受けてきらきらと輝いていたし、あたりには野花の香りが漂い続けていた。水はせせらぎ、静かに空気を運んでいて、アイアイの頬をやさしく撫でていた。
アイアイは石のことをすでに気に入っていた。だが、「きらきらと光る水面」の中から「きらきらと光る石」を探すのはとても難しいことだと指先の冷たさが教えてくれていた。
もう一度、大きなため息をつき、アイアイが立ち上がろうとしたとき——

ふと、コートのポケットに手を入れてみた。
「……え?」
指先が、確かに何か冷たいものに触れた。 引き出してみると、そこには先ほどの、あの光沢のある石が静かに収まっていた。
「……ここに、あったの……?」
ほんの少しの間、手のひらの上の石を見つめる。 (落としたと思っていたけど……自分で戻したのを忘れてたのかな……)
首をひねりながらも、それ以上は考えず、アイアイは再びそれをそっとポケットにしまった。
しばらくして川の音に耳を澄ますと、水の流れの合間に、ほんの一瞬、不思議な和音のような響きが混じったような気がした。 それが風の音だったのか、石が発したものだったのか、それとも——。
アイアイは小さく息を吸い込み、背筋を伸ばした。少し時間を使い過ぎたと思った。いつ夜になるかわからない。今日は、朝を繰り返したが、こういう日はめったにない。こういう日は、夜になるのはまだもう少し時間があるはずだとアイアイは考えた。それでもいつ夜になるかはわからないのでアイアイは先を急いだ。



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