アイアイの大冒険 第四章⑤

第四章

グリグリの叫び声が広間にこだまする中、二体のウーセルは同じ速さで歩を進めてきた。

のっぺりとした顔は感情を持たぬはずなのに、その迫る気配は生々しい恐怖となって三人の喉を締めつけた。

アイアイは台座に目をやった。
デバ石がまだ反応している。霧のようなものが台座の縁からわずかに溢れ、かすかな光が彼らを包もうとしていた。

「……もう少し……もう少しで、なにかが……」

歯を食いしばり、必死に伸ばした手が円盤の刻印に触れる。だが、鍵も台座も沈黙したまま何も起こらない。

「くそっ……!」
アイアイは唇を噛み、悔しさに拳を震わせた。
確かにここに「答え」があるのに、触れられそうなのに届かない。

そのもどかしさをよそに、ウーセルはじりじりと距離を詰めてくる。
背後の個体も動き出し、扉を背後ににじり寄ってきた。

残る逃げ道は一つしかないなかった。

「アイアイ!なにされるか、わかんないよー……!」
グリグリが必死に叫ぶ。

アイアイはグリグリの言葉には答えず、台座を見つめ独り言のように「早く!早く!早く!」と繰り返していた。

「早く早くって言ったってアイアイ…えっ…ギャーーーーー!」
突如叫び声をあげたグリグリの目線の先には三体目のウーセルがいた。

棚の影から現れたウーセルのあとに続くように新しい個体が現れたのだった。間もなくして背後の扉から現れたウーセルの後ろにも音もなく暗闇から新たな二体のウーセルが現れた。アイアイも台座から目を離し増えたウーセルたちを見て恐怖に肩を震わせた。

猫の使者は短剣を抜き、低く言った。
「アイアイ…今は退くしかありません。どういう類の防衛システムかわかりませんが、命を奪われることも十分にありえます…今は退くしかありません…」

三人は互いに視線を交わし、渋々台座から離れた。

足を踏み出した瞬間、台座の光がひときわ強く脈打ったが、何を告げようとしたのかは分からなかった。

答えを目前にしながら背を向けざるをえない――胸を裂くような悔しさを抱いたまま、三人は広間の別の通路へ駆け出した。歩みの遅いウーセルたちを引き離すのは簡単だった。

悔しさもあったが、恐怖から一応逃げられたのだという安堵も同時に感じていた。

しかし、崩れた柱を越え、暗い廊下へ飛び込んだその先で――。
彼らの目に飛び込んできたのは、想像を絶する光景だった。

廊下一面に、白い影がずらりと並んでいた。

十体、二十体ではない。数え切れないほどのウーセルが、折り重なるように、まるでアイアイたちを待っていたかのようにうごめいていたのだ。

そのすべてが、のっぺりとした同じ顔をしている。

グリグリは膝が笑うのを必死で抑え、声を裏返らせた。
「ひっ……ひぃぃっ! な、なんでこんなにいるんだよ!」

その叫びに呼応するかのように、すべての顔のない顏が一斉に三人の方を向いた。

アイアイの心臓が跳ね上がる。

視界の端で、背後の広間からも複数の足音が迫ってくる。

「……囲まれてる……!」

猫の使者が素早く辺りを見回し、息を切らしながら指差した。
「右の通路です! まだ隙がある、今なら抜けられる!」

三人はためらわず駆け出した。

広間へ戻る道は、無数のウーセルに塞がれている。
背後に残した台座が光を放ち続けていることを知りながら、振り返ることすらできなかった。

ただ一つ確かなのは――。

あの広間に再び戻らねば、求める答えには決して辿り着けない。

アイアイたちは、ウーセルの群れの足音が完全に聞こえなくなっても、それでもしばらく走り続けた。

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