光の塊の前で、アイルは、立ち尽くしていた。

モヤモヤは、光の縁に、ほとんど触れそうな距離で、ふわりと揺れている。

「……どう、すればいい…なにがどうなっているの…?」
アイルの声は、洞窟の奥で、小さく反響した。

触れていいのか。引き離すべきなのか。
それとも――何もせず、ただ見守るべきなのか。

答えは、みつかりそうになかった。

そのとき。

「――なるほど……」
静かな声が、背後から響いた。

三人は、声のした方を暗がりの中から凝視した。
一人の人物が、光の中からゆっくりと歩み出てくる。

長い外套。穏やかな佇まい。
その瞳だけが、異様なほどに、澄んでいた。

「……メリウス……学長……?」
シーカーが、信じられないように呟く。

「無事…だったのですね…」
スペーラーも、警戒を解かないまま、視線を向ける。

メリウスは、軽く頷き、三人の前まで来て――
光の塊を、見上げた。

「……いやはや。いったいこれは何なのだろうか…ドラゴンの奴め…何がしたかったのか」どこか弾むような声音だった。

「これは……」
言葉を選ぶように、間を置く。

「この世界の“中枢”に近いものかもしれない。世界を支える根。
 あるいは――世界そのものの心臓、とでも言うべきもの」

アイルの胸が、どくりと鳴った。

「……そんな……」

「アイル。私にも確証はないよ…」

メリウスは、すぐに続ける。

「私にも、どうしてこのような状況になったのかさえ、まったくわからない。どうやらドラゴンも消えてしまったらしい……」

その視線が、モヤモヤへと向く。

「ただ、ある古い『伝承』がある…」

穏やかな口調だった。

神族』が、『世界の中心』と結び合うとき、世界は、その願いに応える”――と

「……改変……ってことですか」
スペーラーが、低く問う。

「ああ。世界のあり方そのものを、書き換えることも可能だと言われている…」

「そして、今、ここは『伝承』と非常によく似た『状況』だ…」

一瞬、沈黙が落ちた。

メリウスが、ふっと微笑む。

「私もいち学徒として、興味が尽きないよ。
 こんな『状況』を前にして、何もせずに立ち去るなど……正直、惜しい」

そして、ゆっくりと、アイルを見る。

「アイル。君は、この子――モヤモヤと、心を通わせていたね」

アイルは、息を呑んだ。

「君の言葉なら、この世界が、なにか応えてくれるかもしれない」

優しく。だが、どこか高ぶっているような声だった。

「何か、願ってみてはくれないか?」

光が、微かに、脈打つ。

モヤモヤが、アイルの方を、ちらりと向いた気がした。

「……わたし……」

アイルは、唇を噛む。

何を願う?何を、言えばいい?

この世界で。
シーカーやスペーラーがいて。モヤモヤがいて――

悩んで、体が硬直しそうだった。メリウスは以前、優しい瞳でアイルを見つめ続けている。

気づけば、モヤモヤもアイルのことをまっすぐと凝視していた。

願い…それは…。

アイルの口から言葉が漏れそうになった‥

そのとき。

「――待て、ヘルマン。早まるな」
メリウスの鋭い声が、空気を切り裂いた。

振り向いた先。

瓦礫の影から、複数の影が、現れる。

先頭に立っていたのは――
警部長、ヘルマンだった。

その背後には、 数名の武装した部下たち。

ヘルマンの手には、見慣れない器具が握られている。

淡く、光を帯びた――なにかの装置。

「こいつらは危険だ」

ヘルマンは、光の塊と、三人を交互に見据えた。

「この事態が、こいつらの仕業かどうかは、わからない」

一拍。

「だが、こいつらが来てからおかしなことばかりだ――ここまで来たら…疑わしきは、排除する」

冷たい決断だったが、ヘルマンの立場、ヘルマンが得ることができた情報からすれば英断だったのだろう。

「アイル、シーカー、スペーラー。お前たちを、アルンデスカイへ――
 強制送還する」

光が、再び、強く脈打った。

モヤモヤが、 不安定に、揺れる。

アルンデスカイに強制送還――

アイルの中で、その言葉は受け止めきれないほど、大きな響きとうねりをもっていた。

つづき第五章37へ

ABOUT ME
Hikasawa Kikori
3本柱!メインテーマは『犬・めし・小説』 スイス・ホワイト・シェパード「ラテ」と暮らしながら、時短で美味しい“パパ料理”を研究中。冷凍野菜を中心に、忙しくても作れるリアルな家庭料理を発信しています。 もうひとつの柱は、オリジナル小説『アイアイの大冒険』。AIと共に世界観を構築し、物語や挿絵を創りあげていく過程を公開中。 SNS運用・AI活用にも挑戦しつつ、日々の気づき、創作の舞台裏、ラテとの穏やかな時間を綴っていきます。 長崎出身。大学で東京へ。東京で結婚。家族と2年オランダへ。帰国後、広島で過ごす。