通路の先は、いつの間にか“道”ではなくなっていた。

石壁は途切れ、天井も、床も、輪郭を失って、何かのために掘られた穴を進んでいく。

ただ――進んでいく先に、 暗闇の奥に、うっすらと光が見えてきた。

「……なに、あれ……」
アイルの声は、 思ったよりも小さく、震えていた。

近づくにつれてその巨大さがわかってきた。

それは、炎ではない。
魔法陣でもない。
照明でも、結晶でもなかった。

巨大な巨大な光の塊。

それは果てしない空洞の底に存在していた。

脈打つように、ゆっくりと、明滅している。

さらに近づくにつれて、胸の奥が、じわりと温かくなった。

怖いはずなのに。逃げたいはずなのに。

(……なに、これ……)

理由もなく、 懐かしいと感じてしまう。

「……ふー……」
スペーラーが、無意識に息を吐いた。

「……これは…なんでしょう?……まさか…俗に言う”世界の中心”…」
言葉を選びながら、それ以上、踏み込まない。

シーカーは、ただ黙って、光を見つめていた。

「……なあ……」
低く、呟く。

「これ……俺たちが、踏み込んでいい場所じゃないだろ……」
誰も返事はしなかった。

シーカーが続ける。
「位置関係的に見て…ここってあのドラゴンが開けた穴の底ってことですよね…。この光があのドラゴンの目的ってことですかね?」

「ふう。先ほどのドラゴンに目的があるようには見えまえんでしたがね…」
吐いて捨てるようにスペーラーが言葉を返した。

カラス族の警備兵たちが、三人を光の手前で止めた。

それ以上は動こうとしない。

……いや。

動く必要がなくなったのだ。

おそらく、カラス族の任務はそこで完了したのだろう。

アイルは眼前に広がる光の塊の中に違和感を感じた。

「……モヤ……」

アイルの喉から、名前が、こぼれ落ちた。

光の塊の前。

その“縁”とも呼べない場所に――
モヤモヤが、いた。

ふわり、と浮いている。

光に目が慣れてくると、 いつもより、はっきりした輪郭をしているように見える。

だが、いつもとは何か表情が違う。

アイルたちの方を見ている……はずなのに、
視線が、合わない。

まるで――
光のほうに、意識を引かれているみたいだった。

「……モヤモヤ……?」

呼びかける。

返事は、ない。

それでも、
モヤモヤは、そこにいる。

アイルが一歩、前に出た。

拘束具が、わずかに音を立てる。

カラス族たちから止められなかった。
カラス族は、一切、動かなかった。

光の塊が、わずかに――強く脈打つ。

ドクン。

心臓の鼓動と、重なった気がした。

(……あ……)

胸の奥から、言葉にならない感情が、浮かび上がる。

怖かった。苦しかった。
閉じ込められるのは、嫌だった。

モヤモヤも何かに囚われているのだろうか、
モヤモヤとは出会ったばかりでわからないことばかりだが、アイルには、モヤモヤと自分が重なるような感覚があった。

怖かった。苦しかった。
もうこれ以上、何かに閉じ込められるのは、嫌だった。

でも――それ以上に…今は。

……ここに、いたい……

シーカーやスペーラーや、モヤモヤがいるこの世界に…

その想いが、はっきりと形を持った瞬間。

モヤモヤが、ふわりと、揺れた。

そして光の塊へ――ほんの、わずかに。

近づいた。

「……っ」
スペーラーが、息を呑む。

シーカーが、叫ぼうとして――
声にならなかった。

光が、 応えたように、強く輝く。

その中心で、何かが――噛み合ってしまった。

アイルは、自分の中で、何かが“戻らない”位置を越えたのを、
はっきりと感じていた。

理由は、わからない。

だが――

もう、この光と、モヤモヤと、 自分は、無関係ではいられない。

そんな確信だけが、胸の奥に、静かに沈んでいった。

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ABOUT ME
Hikasawa Kikori
3本柱!メインテーマは『犬・めし・小説』 スイス・ホワイト・シェパード「ラテ」と暮らしながら、時短で美味しい“パパ料理”を研究中。冷凍野菜を中心に、忙しくても作れるリアルな家庭料理を発信しています。 もうひとつの柱は、オリジナル小説『アイアイの大冒険』。AIと共に世界観を構築し、物語や挿絵を創りあげていく過程を公開中。 SNS運用・AI活用にも挑戦しつつ、日々の気づき、創作の舞台裏、ラテとの穏やかな時間を綴っていきます。 長崎出身。大学で東京へ。東京で結婚。家族と2年オランダへ。帰国後、広島で過ごす。