外縁部へと続く通路は、進めば進むほど静寂に包まれていくかのようだった。
ドラゴンの咆哮もしばらくは聞こえてきていない。

ただ、天井が高くなり、石壁の装飾が減っていく。
進むにつれてアイルたちも誰も言葉を発しなくなり、緊張が高まっていった。

突き当りの扉をくぐり建物の外に出る。

「……ここが、外縁部……」

アイルは小さくつぶやいた。

結界の内側だということは、まだはっきりとわかる。
風も抑えられているし、警報音も、どこか制御されたままだ。

だが――

「……いた…」
スペーラーが、低く言った。

視線の先。
『第65代ノイワール学長記念塔』の尖塔部。

そこに、巨大な影があった。

銀の鱗が、塔の石肌に沿うように折り重なり、
翼はたたまれ、尾は地面に長く伸びている。

間違いなくドラゴンだった。

塔に絡みつき、学院を襲おうとしているというより、
まるで―何かを待っているかのように見えた。

「……」

アイルとシーカーは、同時に息を呑んだ。

 風の丘で出会った、あのドラゴン。その時と同じ存在がそこにはあった。

だが、様子が違う。

もう吠えていない。
炎もない。
こちらを見てはいるが、攻撃の気配はまるで感じられなかった。

落ち着いた様子で何かを観察しているようだった。

「……やっぱりあいつだった…だけど…なんか…」
シーカーが、かすれた声で言った。

ドラゴンの首が、ゆっくりとこちらへ向いた。

その双眸が、三人を正面から捉える。

低く、しかし明瞭な声が、空気を震わせた。

「――近づくな」

言葉は短い。
命令でも、威嚇でもない。

ただ、線を引くような声だった。

「この状況に興味があるが、お前たちには関係なさそうだ」

「……」

誰も、すぐには言葉を返せなかった。

話せる。
言葉は通じる。

だが――
そこに交わる余地はない。

アイルは、無意識に足元を見た。

石床の上に、淡く残る光。

細く、かすかで、今にも消えそうな――
見覚えのある、ふわりとした光の筋。

「……」

アイルは、息を詰めた。

(……モヤモヤ……)

その光は、ドラゴンの足元へと続き、
そこで――途切れていた。

その光がドラゴンに触れた形跡はなさそうだった。
ドラゴン自身も、その光に注意を向けていない。

まるで、
ドラゴンの近くまで行って、消えたかのように。

「……モヤモヤ…ここで、止まってる……」
シーカーが、低く言った。

スペーラーは、ドラゴンから目を離さないまま、短く息を吐いた。
「……ふー…とりあえずドラゴンを排除できるかやってみます…何はともあれ」

その瞬間だった。

アイルたち三人が、ほんの一瞬だけ、ドラゴンから目を離し、

再び視線を戻したとき――

「……え?」

そこに、ドラゴンの姿はなかった。

記念塔の尖塔部。
さきほどまで巨大な影があった場所には、
ただ、尖塔があるだけだった。

「……いない……?」

気配もない。
羽音も、衝撃もない。

忽然と、消えていた。

「……転送……?」
シーカーが、そう言って息を飲み込む。

スペーラーは、静かに周囲を見渡した。

「…ふー…あんな巨大なものが、一瞬で姿を消すとは…どうやって?…」

誰も、答えを持っていなかった。

塔の影に残る、わずかな焦げ跡。
そして、床に消えかけた、淡い光。

ドラゴンは去ったのか。
なんの兆しもなく目の前から一瞬で消え去ってしまった。

しかし、三人が半分、安堵の表情で再び顔を合わせた瞬間、学院の中央部方向から低い衝撃が伝わってきた。

学院の中央方向に目線を合わせると、その中空にドラゴンが羽ばたいていた。

ドラゴンの飛行音も、転送されたような様子もなく、尖塔から、そこにあったという存在をはぎ取られたように消え、今、学院中心部の中空に現れた。

「どうなってるの…」

アイルは小さくつぶやいた。

「ふー。とりあえず、まずい状況になったということだけは確実ですね…ふー」

スペーラーのため息が、いつもより大きく聞こえた。

そして、アイルたちの混乱に乗じるように彼女たちの背後には忍び寄る者たちの影があった。

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Hikasawa Kikori
3本柱!メインテーマは『犬・めし・小説』 スイス・ホワイト・シェパード「ラテ」と暮らしながら、時短で美味しい“パパ料理”を研究中。冷凍野菜を中心に、忙しくても作れるリアルな家庭料理を発信しています。 もうひとつの柱は、オリジナル小説『アイアイの大冒険』。AIと共に世界観を構築し、物語や挿絵を創りあげていく過程を公開中。 SNS運用・AI活用にも挑戦しつつ、日々の気づき、創作の舞台裏、ラテとの穏やかな時間を綴っていきます。 長崎出身。大学で東京へ。東京で結婚。家族と2年オランダへ。帰国後、広島で過ごす。