アイルは、白い光に目を覚ました。
採光板から差し込む朝の光が、石の天井を淡く照らしている。

「……あれ?」

体を起こし、反射的に胸元へ手を伸ばした。

「……モヤモヤ?」

返事はない。寝台の上。床。部屋の隅。
あの、ふわふわとした光は、どこにもなかった。

「……いない……」
言葉にした瞬間、胸がひやりとした。

「どうしました?」

すでに起きていたスペーラーが、静かに尋ねる。

「モヤモヤが……いないの」

シーカーも身を起こし、部屋を見回した。
「……寝る前にはいたよな……昨日…あんなにしゃべってたし」

「……私たちが驚いてたら、調子にのって2時間話続けてましたからね…ふー…」

そのときだった。

――ごう、と低い振動が床下を走った。

「……今の、なに?」

シーカーの声にかぶさるように、遠くで、重い衝撃音。
続けて、学院全体に響く警報。

短く、だが明確な緊急音。

「……これは……」
スペーラーが顔を上げ周りをみまわす。

ドンという音と共に勢いよく扉が開く。

立っていたのは、メリウス学長だった。

「起きていたか」

その声は落ち着いているが、状況がただ事でないことは明らかだった。

「モヤモヤがいないの!」
アイルがすぐに言う。

「‥‥それは大変だ。大変だが別の問題が発生している――」

メリウスは一拍置く。

「学院外縁部に、とんでもないものが転送されてきた」

スペーラーの動きが止まる。

「……とんでもないもの?」

「想定外だ。学院に対処できる戦力はない。」

メリウスは静かに続けた。

「ドラゴンだ」

その瞬間。

アイルとシーカーが、同時に声を上げた。

「ドラゴン!!」

メリウスは顔を見合わせながら驚く二人を見た。
「…君たち…知っているのか」

「知ってるどころじゃないよ」
アイルは即答した。

「会ってる。……殺されかけた…」
シーカーが歯を噛みしめる。
「生きてる。あいつ」

スペーラーは、静かに目を伏せた。
「……やはり、来ましたか」

「来るって?わかってたの?」
アイルが問う。

「ええ。ふー……追われている感覚はありました。私のことを狙っていたのでしょう。」

低い声。

「光の柱に、翼か鱗の一部でも触れたのでしょう。
 転送される条件は、満たしています」

再び、遠くで重い衝撃。

学院のどこかが、軋む音。

「現在、学院は非常事態に入っている」

メリウスが告げる。

「そしてどうやら君たちも――無関係ではいられないようだね」

そしてメリウスは中空に向かって「ヘルマン・ルーグレイ」と声を発した。

その声に答えるかのように中空が歪み、ヘルマンの映像が浮かび上がった。

「メリウス学長…やはりウサギ族のやつらの仕業なんじゃないですか?」

「ヘルマン…アイルたちのことは今、私が『見ている』。彼らに敵意は感じられない。それよりもドラゴンへの対応が急務だ…」

「もちろん存じております。とはいってもご存じの通り学院にドラゴンに対抗できる戦力はありません。非難を優先させております…」

アイルは、ぎゅっと拳を握った。

(モヤモヤ……どこにいるの……)

行方不明の小さな存在と、再び現れた巨大な脅威。 

学院の朝は、静かに、しかし確実に――

次の局面へと踏み込んでいた。

つづき第五章29へ

ABOUT ME
Hikasawa Kikori
3本柱!メインテーマは『犬・めし・小説』 スイス・ホワイト・シェパード「ラテ」と暮らしながら、時短で美味しい“パパ料理”を研究中。冷凍野菜を中心に、忙しくても作れるリアルな家庭料理を発信しています。 もうひとつの柱は、オリジナル小説『アイアイの大冒険』。AIと共に世界観を構築し、物語や挿絵を創りあげていく過程を公開中。 SNS運用・AI活用にも挑戦しつつ、日々の気づき、創作の舞台裏、ラテとの穏やかな時間を綴っていきます。 長崎出身。大学で東京へ。東京で結婚。家族と2年オランダへ。帰国後、広島で過ごす。