突如として尖塔から消え、そして突如として中空に現れたドラゴン。

その現象に直面したアイルたちが背後からの忍び寄る気配に気づくことは不可能に近かっただろう。

歴戦のライオン族がその気配に、気づいた時には――
もう、遅かった。

「――っ!」

背後から、重たい衝撃。
アイルの視界が一気に傾き、石床が目前に迫る。

「えっ?え――!」

次の瞬間、冷たい床に押し付けられた。
肩、背中、手首。
複数の力が、無言で、正確に体を制圧してくる。

「待っ……なに、なに……!?」

声を上げようとしたが、喉が潰される。
息が、詰まる。

視界の端に、黒い羽根。
――カラス族。

何人もいる。
だが、誰一人として声を発していない。

「……おい!なにやってんだ!誰の命令だ!」
少し離れた場所で、シーカーの怒声が響いた。

だが、その声もすぐに途切れる。

床に伏せられたシーカーの横顔が、一瞬見えた。
同じように、無言の手に押さえつけられている。

シーカーの問いにもカラス族たちは反応すら示す様子がない。

「……ふー……これは……」
スペーラーの声も、低く途切れた。
抵抗しようとした腕が、関節ごと正確に押さえ込まれている。

――異様だった。

乱暴ではない。
だが、容赦もない。

ただ「拘束する」という行為だけが、そこにあった。

アイルは、必死に顔を上げた。

目の前にいるカラス族の警備兵。

その瞳は――
開いているのに、どこも見ていなかった。

焦点が、合っていない。

「……ねえ……聞こえてる?」

問いかけても、反応はない。
瞬きすら、ぎこちない。

まるで――
中身のない身体が、動かされているかのようだった。

そのとき。

――ゴォ……ッ

低く、空気を震わせる音。

アイルの視界の先、
学院中央部の上空。

そこにはやはり――
ドラゴンが、いた。

翼を大きく広げ、
学院全体を見下ろすように、静止している。

どうやって、ドラゴンがそこに移動したのか。
なんで?なんのために?誰が・・・?
アイルの頭の中ではぐるぐると疑問が回るばかりだった。

「……ドラ……ゴン……」

誰かが、かすれた声でつぶやいた。

次の瞬間。

ドラゴンの胸が、淡く光った。

光は、喉へと集まり――
圧縮されるように、強度を増していく。

「……っ、まさか…うそだろ…!」

スペーラーの声が、緊張を帯びた。

――そして。

ドラゴンが、口を開いた。

白銀の閃光が、
一直線に、学院へと放たれた。

光は、音を置き去りにした。

空が裂けるような輝きが、
学院の構造物へ、容赦なく迫る。

結界が、悲鳴のように軋んだ。

アイルは、床に押さえつけられたまま、
ただ、その光を見つめることしかできなかった。

(……モヤモヤ……)

胸の奥で、何かが、強くざわめいた。

――学院が、揺れる。
龍の閃光は、強度を誇っていたはずの結界なんてもとからなかったかのように

学院中心部を貫き、破壊した。

アイルたちは爆音と爆風に耐えながらその光景を眺めることしかできなかった。

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Hikasawa Kikori
3本柱!メインテーマは『犬・めし・小説』 スイス・ホワイト・シェパード「ラテ」と暮らしながら、時短で美味しい“パパ料理”を研究中。冷凍野菜を中心に、忙しくても作れるリアルな家庭料理を発信しています。 もうひとつの柱は、オリジナル小説『アイアイの大冒険』。AIと共に世界観を構築し、物語や挿絵を創りあげていく過程を公開中。 SNS運用・AI活用にも挑戦しつつ、日々の気づき、創作の舞台裏、ラテとの穏やかな時間を綴っていきます。 長崎出身。大学で東京へ。東京で結婚。家族と2年オランダへ。帰国後、広島で過ごす。