ヒカサワキコリブログ
~日常生活バラエティ~
ほら、ここがきこりさんち
第五章

アイアイの大冒険 第五章㉑

アイルは しんと静まり返った廊下を忍び足で進んだ。
モヤモヤを胸に抱えながら、心臓が落ち着かないまま早鐘を打っている。

「……シーカー、近くにいるの……?」

問いかけると、モヤモヤは光を小さく震わせた。
けれど、次の言葉は出てこない。

(とにかく、探さなきゃ……!)

廊下の曲がり角をそっと覗く。

誰もいない。

アイルは息をひとつ飲み、深呼吸して曲がり角の先へ向かおうとした。

――そのとき。

「うわあああああっ!!?!」

甲高い悲鳴が響いた。

アイルは反射的に飛び上がり、後ろを振り返るとコルヴィンが立っていた。

ツル族の青年研究員。
さっき会ったばかりの、あの慌てんぼうが診察室の扉の前にいた。

「ア、アイルさん!?なんで!?えっ……えっ!? 寝てたんじゃなかったんですか!?
あれ!?診断室の鍵……鍵かけたのに……!!」

話しながら早足で向かってくるコルヴィン。途中からは少し羽ばたきながら急いで近づいてきた。

「ご、ごめんなさい……!でも、行かないと……!」

アイルが言いかけたところで、 廊下の奥から、カラス族の怒鳴り声が響いた。

「侵入者が捕まったらしい!これから警備部に移送されるらしい。」
「でかいやつが暴れてるらしい。応援に行くぞ!」

アイルの心臓が跳ねた。

(侵入者……?シーカー?でかいやつはスペーラーさんのこと?)

「ちょ、ちょちょちょっと待ってください!今、学院全体が警戒態勢なんですよ!?
地下のほうで“侵入者”が逃げ回ってるって…あっ…まさかアイルさんの友だちって……!」

アイルは疑問に答える暇もなく、 コルヴィンの腕をつかんだ。

「ねぇ!その“侵入者”、どこにいるの!?教えて!どっちに行けばいいの!?ねえ早くおしえなさい!」

「ええええええっ!?な、なんで逆にワタシが怒られてるんですか!?えーと、その、地下通路のほうで…!警備がすごくて……危ないから絶対に行っちゃダメで…!」

そのとき、アイルの腕の中でモヤモヤが震えた。

「……チョチョチョット…チカイ……」
「……エエエエエエ!…シーカー……チカク……」

アイルの胸が熱くなる。
「さっき、捕まえて警備部に行くっていってた。そこがどこなのか教えて」

「えぇぇぇぇっ!?む、無理です無理です!!だって警備のカラス族、怖い人だらけなんですよ――」

アイルはコルヴィンから手を放し、廊下の奥をまっすぐ睨んだ。
「そんなの関係ない…行く!連れて行きなさい!」

「やめてぇぇぇ!!!」
コルヴィンは半泣きで羽をばたつかせた。

アイルは再びコルヴィンの手を掴み、目をまっすぐ見つめ続けた。
コルヴィンはバタつかせていた羽を落ち着かせ、観念したかのようにうなだれた。

「わ、わかりましたっ!警備部へ行くなら……この先の大階段を下りて左に入口があります。でも絶対に、絶対に気をつけてくださいよ!?ここの人たちは優しい人たちばかりですけど、警備部は怖い人たちしかいないんですからー」

アイルは小さく頭を下げた。

「ありがとう。……じゃあコルヴィンもついてきて」

コルヴィンの代わりかのようにモヤモヤが間髪入れずに
「ヤメテェェェ…」と言った。

「ふふふ、モヤモヤ、あなたのことを気に入ってるみたいよ。うん。コルヴィン…改めてお願いします。私たちについてきてほしいの。私たちだけだと、私たちもすぐに侵入者扱いされそうだもの…」
アイルは深々に頭を下げた。

コルヴィンはまるまっていた背中を伸ばしながら言った。
「…私も『やめてぇぇ』って言いたかったんですけどね…つつつ…ついていくだけですからね。できることはやってみますけど…」

モヤモヤが光をぎゅっと寄せ、アイルの胸にしがみつく。

「……アイル……イコ……」

アイルはうなづき走り出した。
コルヴィンも中空を羽ばたきながらついてきてくれた。

暖かった診察室とくらべて廊下の先には冷たい空気が詰まっているように感じられた。

ABOUT ME
Hikasawa Kikori
3本柱!メインテーマは『犬・めし・小説』 スイス・ホワイト・シェパード「ラテ」と暮らしながら、時短で美味しい“パパ料理”を研究中。冷凍野菜を中心に、忙しくても作れるリアルな家庭料理を発信しています。 もうひとつの柱は、オリジナル小説『アイアイの大冒険』。AIと共に世界観を構築し、物語や挿絵を創りあげていく過程を公開中。 SNS運用・AI活用にも挑戦しつつ、日々の気づき、創作の舞台裏、ラテとの穏やかな時間を綴っていきます。 長崎出身。大学で東京へ。東京で結婚。家族と2年オランダへ。帰国後、広島で過ごす。