
四人は大空洞の縁に沿った細い通路を進んでいた。
頭上から滴る水滴が石に落ちるたび、通路全体が低く鳴り響き、まるで巨大な生き物の心臓音のように聞こえる。
「……せ、狭い……ひぃ……下見たらだめだ下見たらだめだぁぁ……」
グリグリが壁にへばりつきながら涙目で呻いた。ランタンの灯が彼の影を不気味に伸ばし、奈落の闇へ吸い込んでいく。
オイラーは一行を無言で先導していたが、ふいに足を止め、耳をぴくりと動かした。
「……後ろから、来てるね」
その声に全員が息を呑む。暗闇の奥で、ずりずりと石を擦る音が近づいてきていた。
「なんでなんでなんで!後ろの入口はふさがれたじゃない!」
グリグリが大声で叫ぶと、オイラーが眠そうな目のまま答えた。
「どっかの分岐から入ってきたんじゃないの?君がいちいち大騒ぎするからさ。うん。そりゃ気づくよ」
「もっと僕に注意してよ・・・」グリグリは小さな声で情けなく言った。
やがて、後方、光の端に三体の白い影――ウーセルが現れた。
慎重に進む四人と比べて、ウーセルたちは自らの命に頓着してないようで、狭く、片側が深淵に続く崖だろうとお構いなしに折り重なって突き進んできた。そのため、アイアイたちはすぐに追いつかれてしまったのだった。
実際、三体が現れた瞬間、ほかの二体に押し出される形で一体のウーセルが無言のまま、奈落の底に落とされていった。
「ひぃっ!いやだぁぁぁ!」
先ほどの反省を忘れてグリグリが大声で叫んだ。
グリグリが頭を抱えると、猫の使者は即座に短剣を抜いた。
「落ち着いて!ここでもみ合いになったら終わりです!」
狭い通路ゆえ、逃げ場はない。二体のウーセルがじりじりと迫ってくる。
アイアイはデバ石を握りしめ、胸の鼓動を抑え込むように息を止めた。
そのとき――オイラーが壁に耳を当て、のんびりと呟いた。
「……あーあ、追加ありだね。三体……いや四体か。もうすぐこの狭い通路に入り込んでくるね」
「何呑気に数えてんだよぉぉぉ!」
グリグリが絶叫した瞬間、先頭のウーセルが腕を伸ばし、アイアイに触れようとした。
「させませんッ!」
猫の使者が短剣を投げつけ、影のような速さで一体の足を貫いた。ウーセルは倒れ込んだが、地面を這うように前へ進み続ける。
「……こいつら、止まらない……!」
アイアイが恐怖に声を震わせる。
そのとき、オイラーが欠伸をしてぼそりと告げた。
「左の壁……少し空洞になってる。壊せば避けられるよ」
猫の使者が即座に短剣の柄で壁を叩きつけた。石が崩れ、小さな横穴が開く。
「今だ、入りましょう!」
四人はもみ合うように横穴へ滑り込み、ぎりぎりで迫るウーセルたちから逃れることができた。
暗い横道に転がり込んだ後、猫の使者が扉代わりに崩れた石を押し込み、通路をふさぐ。
背後から、ずりずりと石を擦る音が続くが、今はウーセルたちは通って来られそうになかった。
荒い息を整えながら、アイアイは振り返る。
「……あんな狭い通路で……もし囲まれてたら……」
言葉は震えていたが、その瞳には決意の光も宿っていた。
猫の使者は短くうなずき、前を指さした。
「進みましょう。……立ち止まれば、必ず追いつかれます」
四人は再び、闇の奥へ歩を進めた。四人が入った横道は、本流の通路とつながっていることがオイラーの調査でわかった。
大空洞の冷気は、なお四人の背中にまとわりついて離れない。
しばらく歩いていると、突然、オイラーが今までにはなかった大きな声で言った。その声にグリグリは飛び跳ね、猫の使者は一瞬で身構える。
「あっ!食べ物ちょうだい!!」



コメント