アイアイの大冒険 第四章⑪

第四章

瓦礫をくぐり抜け、四人は地下通路に身を滑り込ませた。

そこは背をかがめなければ進めないほど狭く、湿気がひどく、空気は息苦しいほど重かった。
崩れた石と泥の匂いが鼻を刺し、遠くで水滴がぽたりと落ちる音が反響していた。

「……せまっ……うう、こわいよぉ……」
グリグリが尻尾をすぼめて呻いた。

アイアイも息を詰めていたが、胸の奥のデバ石がかすかに脈打つのを感じ、足を止めることはできなかった。

猫の使者がランタンを掲げると、通路の壁には古びたレンガが積まれており、その表面にかすれた文字が刻まれているのが見えた。

アイアイが近づき、埃を払い落とすと、その一部が判読できるようになった。

「……『大空洞調査用通路』……?」

声に出すと、四人は顔を見合わせた。

猫の使者が低くつぶやく。
「どういう意味でしょうか。学舎の地下に……大空洞が?」

オイラーは鼻先をひくひくさせながら、眠たげに肩をすくめた。
「そのまんまじゃない? でっかい空洞が地下にあるのは、モグラ族ならみんな知ってるよ。すんごいスケールの穴さ。……でもここの通路なんてのは、意識したことなかったなぁ。」

淡々とした口ぶりに、アイアイの胸がざわついた。

そのとき――。

ゴトン、と背後で何かが動く音がした。
全員が振り返ると、通ってきたばかりの瓦礫の隙間が崩れ落ち、出口が完全に塞がれていた。

「……戻れない……」
猫の使者の低い声が通路に沈む。

不安が極まる中、オイラーがふらりと壁際に座り込み、土に耳を押し当てた。
「……ふーん……なるほどねぇ」

いつもの調子で欠伸をしながら言葉を続ける。
「あの白い人形たちが無理やり入ってこようとして崩れたんだね。うーん。もう追手の心配はないね」

「そ、そんな……でも、閉じ込められちゃったんじゃ……」
グリグリが半泣きになって叫ぶ。

オイラーは眠そうな目をこすりながら、のんびりと首を振った。
「大丈夫。学舎とこの通路のつながりは、一つだけじゃないよ。いくつもある。」

その言葉にわずかな安堵を覚え、四人は再びランプの明かりを頼りに歩き出した。

暗い地下通路はやはりひどく湿っており、壁面から水が滴り落ちては床を濡らしていた。

何度か地上とつながっていそうな分岐路にぶつかったが、オイラーは耳を澄ませては「ここじゃない」とあっさり言い切り、別の道を示し進んだ。

やがて――通路が開けた瞬間、四人は思わず立ちすくんだ。

「……ほら、ここが“大空洞”だよ。実際に見るのは僕も初めてだけどね」

オイラーの声に導かれ、目の前に広がったのは、とんでもないスケールの竪穴だった。

岩肌は水に濡れて黒光りし、見下ろす底は暗闇に飲み込まれてまったく見えない。漆黒の穴に空気さえも吸い込まれて行っているかのような錯覚に襲われる。

ランタンの火種を落としても、数秒後にかすかな反射が返ってくるだけだった。

「ひぃっ……こんな……落ちたら…おわりじゃん……」
グリグリが尻尾を丸め、膝を震わせた。

アイアイはデバ石が胸の奥で強く脈打つのを感じ、喉を鳴らした。
「……こんなものが……建物の下に……」

猫の使者が続けて口から漏れるような独り言を言ったが、「なんかのイベントで使われ…」と途中で言葉を止めた。

アイアイが何か言ったか尋ねると

「雄大な自然が生んだ光景です。実に素晴らしい」と返した。

猫の使者は、短く咳ばらいをして、先に進むことを提案した。

大空洞の縁を回り込み、さらに不気味な通路を進む一行。

湿気が増したと思ったとき、風がどこからか吹き抜け一瞬、湿気を持ち去っていった。
その風は冷たく、まるで空洞の底から誰かが息を吹き返しているかのように感じられた。

一行は不安と恐怖に飲み込まれそうになりながら暗い通路を慎重に進んでいった。

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