丘の上には、まだ焦げた草の匂いが残っていた。

アイルはしばらく呆然とその場に立ちつくしていたが、
目の前の白銀の騎士に気づいて慌てて姿勢を正した。

「えっと……助けてくれて、ありがとうございます!」
アイルが頭を下げると、騎士は首をかしげるように視線を落とした。

「私はスペーラーです。あなた方は?」

「スペーラー……?」
アイルとシーカーは顔を見合わせた。
「あ‥よろしくお願いします!スペーラーさん!」

「……ああ、ええ。ははは…まあそう呼んでください。」
面倒そうに言いながらも、どこか苦笑している。

アイルは一歩前に出て、彼の鎧を見上げた。
白い毛並みと銀の装甲の境目には、焦げ跡が残っている。

「さっきのドラゴン、あなたが追い払ったんですよね?あんな大きいのに、一撃で……すごいです!」

スペーラーは軽く肩をすくめた。
「仕事ですから。……あまり近づかない方がいいですよ。余熱が残っています。」

言われてアイルが足元を見ると、
黒く焼けた地面の上で、何かが淡く光っていた。

彼女は思わずしゃがみこみ、それを拾い上げた。

これ……ドラゴンの鱗?
手のひらほどの銀の破片が、じんわりと温かい。

アイルが目を輝かせる。
「やばい、こういうの、絶対レアアイテムだよ!」

「ちょ、ちょっと待てって!アイル、それ持って帰る気か!?」
シーカーが慌てて制止するが、アイルは笑って聞いていない。

「だって、見てよ。こんな綺麗な光……絶対なにかに使えるって!」

スペーラーはため息をついた。
「……危険かもしれませんが、お好きに。責任は取れませんよ。」
アイルは鱗を大事そうにポーチにしまった。

その様子を見て、シーカーが半ば呆れたように言う。
「アイルってさ、怖いとか不安とか、感じる回路ないの?」

「うん、あるとは思うよ。でも“楽しそう”が勝っちゃうんだよね。」
アイルは照れくさそうに笑った。

スペーラーはその笑顔を一瞥すると、少し真面目な声になった。
「……ところで、あなた方。今からどちらへ?」

「え? 村に戻るつもりですけど」

「うーん、申し訳ないんですがね…。非常にめんどくさいでしょうが、私の詰所まで同行してもらえますか。報告と確認が必要でして。めんどくさいですね…」

シーカーが眉をひそめた。
「詰所……って、トロトロット公国の?」

「はい。正確には、この国と公国の境界線上の場所に位置するところです。こちらは結構重要な任務でして、時間の余裕もないんですよ。」

アイルは少し驚いたように頷いた。

そして妙に真剣な表情を作って言った。
「でも、私たちが帰ってこないとなると村のみんなや局長が心配するわ…」

シーカーは妙な表情を作り続けるアイルに笑いながら言った。
「お前、それ本気で言ってるのか?」

アイルが吹き出し、つられるようにシーカーも笑った。

「任務の報告は村に帰ったときでいいよね。行ってみよ。シーカー。」
アイルの言葉にシーカーは静かにうなづいた。

スペーラーは小さく息を吐き、剣の柄に手を置いたまま背を向けた。
「――ふー…行きましょう。急がないと夜になりますよ」

彼の足取りは重くも確かなもので、
アイルとシーカーは顔を見合わせ、あとに続いた。

丘の上には、まだ竜の焦げ跡が残っていた。
草の焦げた匂いと、遠ざかる三人の影だけが、静かに風の中に揺れていた。

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Hikasawa Kikori
3本柱!メインテーマは『犬・めし・小説』 スイス・ホワイト・シェパード「ラテ」と暮らしながら、時短で美味しい“パパ料理”を研究中。冷凍野菜を中心に、忙しくても作れるリアルな家庭料理を発信しています。 もうひとつの柱は、オリジナル小説『アイアイの大冒険』。AIと共に世界観を構築し、物語や挿絵を創りあげていく過程を公開中。 SNS運用・AI活用にも挑戦しつつ、日々の気づき、創作の舞台裏、ラテとの穏やかな時間を綴っていきます。 長崎出身。大学で東京へ。東京で結婚。家族と2年オランダへ。帰国後、広島で過ごす。