アイアイの大冒険 第五章⑮

第五章

アイルはメリウス先生のあとを歩いていた。
学舎の廊下はひんやりと冷たく、まるで建物そのものが静かに息をしているようだった。

壁際には古い書物と器具が並び、棚には研究員たちが扱いそうな羽根ペンや観測用の小さな鏡が整然と並んでいる。

天井は高く、そこかしこで淡い青い光が脈動していた。

「すごい……なんだかワクワクがとまらない……」

アイルは思わずつぶやいた。
モヤモヤは肩にしがみついたまま、光を弱く揺らしている。怖がっているのか、興味深がっているのか、判断がつかない。

廊下を歩いていると、次々に研究員たちとすれ違った。
ツバメ族、サギ族、カモメ族、時折ハヤブサ族と思われる鋭い目の研究者もいる。

ほとんどの者が中空を飛びながら移動し、珍しいウサギ族を見つけては降りたってきた。

「……ふむ、転位室に紛れ込んだのか……」「外部から?珍しいな……」
「導路の再調整が必要かもしれんな」

研究員の彼らはアイルを一瞥するとメリウス先生に事情を確認し、一言二言だけ言葉を交わすだけで、すぐに飛び去って行った。
アイルに対して興味はあるようだったが、ひとつの事象としての興味だけのように思えた。

フクロウ族の研究員とすれ違ったときは、メリウス先生も、同族の彼も挨拶を交わすことはなかった。『仲が悪いのだろうか。』アイルが、そんなことを考えているとメリウス先生が立ち止まった。

「ここが中央棟だよ」

 指し示された先には、広い円形のホールが広がっていた。
 天窓から光が差し込み、床の文様は淡く光を帯びている。

 アイルは思わず息をのんだ。

「……きれい……」

「造られてから百年以上経つが、魔術文様の維持力のおかげだろう。
この中央棟を中心に、学舎は環状に広がっている。研究棟、記録棟、展望棟、そして……」

メリウス先生は一瞬だけ視線を伏せ、
「地階」に続く階段を見つめた。

「……地下は、立ち入りが制限されている。興味があっても降りてはいけないよ」

アイルは素直に頷いた。
が、モヤモヤはその暗い階段をじっと見つめ、光をほんのわずか震わせた。

アイルはその光景に気づいて、肩をかすかに揺らした。
「ん?怖いのモヤモヤ??…大丈夫、大丈夫。行かないよ」

モヤモヤはアイルの胸もとに寄り添うように光を沈めた。

「さて。簡易診断室に急ごう。転送で負荷がかかった身体を確認せねばならない」
メリウス先生は歩みを進める。アイルもそれに続いた。

「……ここ、すごく大きいんですね。まだ歩きますか?」
少し汗ばんできたアイルが尋ねる。

メリウス先生は振り返り、軽くうなずいた。

アストライア学術院は三つの塔と複数の棟で構成されている。
 研究者は常に移動するだけで大忙しだよ。
 鳥族が多いのは、この学舎に適しているからだろうね」

アイルは笑った。
「こんなところには初めて来たので、何がなんだかわからないことだらけです」

「そうだろうとも。だが恐れることはない。あなたは客人だ。
 少なくとも、ここでは安全だよ」

アイルの胸がまた少し軽くなる。

霧丘の冷たい空気も、光の柱も、突然の転送も――
すべてが一気に押し寄せて、さすがのアイルも混乱しそうになったが、
少なくともメリウス先生はゆっくりどっしりとしていて優しかった。

先生はアイルに合わせて廊下を一緒に歩いてくれた。

アイルは、メリウス先生と話す度に、すこしづつ自分が落ち着いていくのが分かった。
一度、大きく深呼吸してみた。そうするとまた一段とまわりが見えるようになった。

そうしていくうちに、ふと大事なことを思い出した。

「あっ!シーカー!!」

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