アイアイの大冒険 第五章⑬

第五章

静寂を破ったのは、スペーラーのため息だった。

「えー…最良のパターン、転送装置。最悪のパターン、処刑装置……ふー」

「ふーっじゃないですって! スペーラーさん!!」

シーカーの大声が響き、シーカーはスペーラーの方に向き直って
今にも泣き出しそうな顔を見せた。

「うーん……そうですね…もう帰っていいですか」
「帰っていいわけないだろ!!!」
シーカーの叫びにも似た大声が広間に響いた。
 
光の柱は今もなお煌々こうこうとして存在している。
光の柱の周りの空気だけが微かに揺れていた。

見渡すとアイルだけでなく、モヤモヤもいない。
シーカーはしばらく、光の柱の中心を呆然と見つめていた。
「……モヤモヤもいない。たぶん、一緒に行ったんだ」

「ええ、そうですね。ふー……彼女につかまって一緒に消えるのを見ました」
スペーラーは相変わらず淡々としている。
シーカーは唇をかみ、深く息を吸い込んだ。

「スペーラーさん……」
「はい?」
「これって、さっきおっしゃいましたけど、きっと転送装置なんですよね。アイルは、どこか別の場所に行っただけなんですよね。そう信じていいですよね…」
「……断定はできません。でも、たしかにあれが処刑装置であるなら、肉片とかね。ほら‥ね。その辺にね。転がっててもおかしくなさそうですし、それがないっていうんなら転送装置の可能性も高いかもです‥ふー」

シーカーは耳を疑い、スペーラーの神経を疑ったが、何も言わないことにした。
拳を握る音が、わずかに響いた。


「転送装置であるなら、俺も行けるはずですよね。」
「……なるほど。それはそうでしょうけど、少々勇気が必要ですね。転送装置であるっというのはあくまで可能性の一つであり、最悪のパターンもありえます。ふー」

「……アイル、どうしてあんな無茶を……」
小さくつぶやく声が、広間に落ちた。

スペーラーは階段の方を振り返り、いつもの口調で言った。
「あなたも光の柱に飛び込んでみようというのなら止めません。あとはあなたの判断ですよ」

「……俺の、判断?」
「ええ。転送装置だと思うなら、飛び込めばいい。処刑装置だと思うなら、止めればいい。それだけの話です」

シーカーは目を閉じ、両手で顔を覆った。

長い沈黙。

それから、かすかに笑った。
「……あいつ、アイルのやつ、きっと笑ってるんだろうな。『すごい装置見つけた!』とか言って」

スペーラーが肩をすくめた。
「でしょうね。あなたも行けば、笑われると思いますよ」
「……行きます」
「勇気ある選択です。ふー……まあ、止めませんけど」

シーカーは光の柱の前に立った。
床の文様に足を乗せ、フーフーと息を切らしている。

「別に止めませんが、最後に聞かせてください。これが転送装置だと信じる根拠はありますか?」
「信じたいだけです」
「……なるほど。信じる力は時に強力ですが、盲目でもありますね。いいものを見られそうです…」

スペーラーの声に、シーカーは振り返らずに笑った。
「もし処刑装置だったら、俺も死んじゃいますよ・・・」
「うーん。そんなところを見ても面白くはないかもしれませんね」

「……スペーラーさん!よく見といてくださいよ!!」

光の柱を前にシーカーは自分に檄を飛ばすかのように一番の大声で言った。

シーカーは一度大きく深呼吸をして、息を止めてから、光の柱の中へ飛び込んだ。

光の柱が一瞬、光を強くしたかと思うと、

シーカーの姿はもうどこにも見当たらなかった。

広間に再び静寂がもどり、そこには光の柱とスペーラーだけがたたずんでいた。
「…ふー。実に面白い。しかし、彼は賭けに勝ったのでしょうか‥…うーん。確かめるすべはひとつしかありませんね…めんどうなことですが、まあ、あの二人を気に入ってしまいましたので‥‥‥‥しょうがないか」

スペーラーは頭をかき、ひとり静かに塔の外を見やった。
霧の向こうで、風が音もなく流れていた。

「それでは、年甲斐もなく私も挑戦させてもらいましょう…」

そう言ってスペーラーはまっすぐ光の柱に向かって歩いて行った。

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