アイアイの大冒険 第五章⑤

第五章

轟音とともに、巨大な影が丘に降り立った。
地面が低く唸り、砂と草が吹き上がる。

アイルは思わず目を見開いた。
「……きたっ!」

銀の鱗、長い首、広げられた翼。
絵本の中でしか見たことのないような存在が、いま目の前にいた。
ドラゴンの双眸そうぼうが、まっすぐこちらを見据えている。

「われらの聖域を荒らすのは、お前たちか……!」
低く響く声が、大地を震わせた。

シーカーが息を呑む。
「う、うそだろ……?これ、もしかして戦うのか……!」

アイルは逆に顔を輝かせていた。
「わーっ、ほんとにしゃべった!こういうの、あこがれてたんだよね!」
その声には恐れよりも、純粋な興奮が混じっていた。

「アイル、ふざけてる場合じゃない!あれ、本気で怒ってるぞ!」
「だって、すごいじゃん! ドラゴンだよ!? ドラゴン!!」

アイルは慌ててポーチからデバ石を取り出し、画面をのぞき込む。
「えーと…ドラゴン…ドラゴン…って、うわ、これ、ダメなやつ!」

その瞬間、ドラゴンの喉奥に赤い光が走った。
「我が炎で塵と化せ!」

次の瞬間、爆ぜるような熱風が丘を飲み込んだ。
「アイルっ!」

シーカーが叫び、体当たりの勢いでアイルを地面に押し倒した。
炎が頭上を通り抜け、草が焦げる匂いが立ちこめる。

アイルが目を開けたとき、ドラゴンは再び息を吸い込んでいた。

「終わりだ、人の子よ!」

だが、その炎が放たれるよりも早く――
眩い閃光が、竜の口元を切り裂いた。

「……!?」

ドラゴンの巨体がのけぞる。炎が散り、空気が一瞬にして冷えた。

その光の中から、白銀の鎧が現れる。

たてがみを風になびかせたホワイトライオン族の男――
胸には、トロトロット公国の紋章。

彼は片手の大剣を肩に乗せ、面倒そうにため息をついた。
「まったく……めんどうなことです…」

その声に、ドラゴンが唸るように後ずさる。
「……貴様、その剣をどこで――!」
言い終える前に、騎士の剣が一閃した。

轟音。光。

光の中から、ドラゴンの低い声が響いた。
「おのれ、人の子風情が!おぼえておれよ!」

そして、次に見えたときには、竜の姿はどこかに消えていた。

アイルは呆然と立ち上がった。
「い、いまの……最後…めちゃ悪役っぽいセリフだったね…?」
アイルは少しおかしくなって笑った。笑うアイルをシーカーは引きつった表情で見上げていた。

騎士は振り返り、低血圧な声でつぶやく。
「まあ、追い払ったって感じですかね。ふー。」

シーカーはまだ尻もちをついたまま、言葉も出ない。

丘の上に残ったのは、焦げた草と、わずかに光を帯びた鱗のかけらだけだった。

ライオン族の騎士は、大剣をしまい二人に向き合って
こう告げた。

「私はスペーラーです。あなた方は?」

白銀の鎧にかかる白いたてがみが、柔らかく風に揺れていた。

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