アイアイの大冒険 第一章⑤

第一章

夕暮れが近づくころ、丘の向こうにようやくザラーリンの城壁が姿を現した。

陽の光を浴びて赤く染まる石造りの壁は、高く、厚く、どこか冷たさを感じさせるような重々しい存在感を放っていた。外壁には古いレリーフのような紋章が彫られていて、王国の歴史の長さを物語っているようだった。

その足元では、すでに幾人もの旅人たちが列を作り、それぞれが懐からデバ石を取り出して、門番の兵士に見せていた。

兵士は無言でデバ石を確認し、うなずくと、門の片方をわずかに開けて通している。次の者が一歩進み、また同じ動作の繰り返し。

アイアイは列の最後尾に並び、ポケットの中で自分のデバ石を握った。 

空はすでにオレンジから紫へと変わりはじめていた。石畳の影は長くのび、旅人たちの足音とデバ石のかすかな共鳴音が、夕暮れの空気のなかに吸い込まれていった。

前に並んでいた旅人のひとりが、通過を拒否され、詰めかけた衛兵と言い合っている。どうやらデバ石を持っていなかったらしい。その旅人は「私は旅人で、世界中の都市を回っている」という説明を繰り返していた。衛兵たちは、その旅人の腕をつかみどこかに連れて行った。

アイアイは、どうしてデバ石を持っているかどうかで、入場を制限しているんだろうかと不思議に思った。アイアイのうしろに並んでいた「ワニ族」の商人風のおじさんが「ほお」と声をあげたのを聞き、アイアイはデバ石がなぜ必要か聞いてみることにした。

「デバ石をもっていない人物のことを王国は危険視しているようなんですよ。以前、デバ石をもっていない人物が王都で暴れたとか。狼族の男性らしいんですが・・」

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「おっと失礼」

ワニ族のおじさんは、そういったあと自分のデバ石からの情報に目をやり黙り込んでしまった。

その様子を横目で見ながら、アイアイの手の中のデバ石がほんのわずかに熱を持った気がした。 

やがて、自分の番が来た。

アイアイは少し緊張しながら、自分のデバ石を差し出した。 兵士の目がわずかに細まり、石を手に取りじっと見つめる。

隣の兵士が小さく首を振り、ふたりのあいだで何か短く言葉が交わされたあと、はっきりとした声が放たれた。

「この石……識別不能」

「入城、不可。判断不定のものは、王都の安全保障上、入場を拒否する」

淡々としたその声には感情のひとかけらもなく、それこそ、まるで石が言っているような機械的な響きすらあった。

「えっ……ちょっと待って。ぼく……」

アイアイが言いかけたときには、すでに兵士の手が制止のしぐさをしており、門の前の列が別の方向へ誘導されはじめていた。ワニ族のおじさんは、デバ石にまだ夢中で、アイアイのことすら見ていなかった。

アイアイは門の前にぽつりと立ち尽くした。 旅人たちは背後で通り過ぎていく。誰も気に留めず、誰も声をかけない。

アイアイは以前から、自分のデバ石はちょっとだけ人のものとは違うなっとは思っていた。デバ石の中には、村のみんながもっているモノと同じようにAIというものがはいっているはずだった。

母がいうには人工知能というやつらしい。

みんなのデバ石とくらべ「アイアイのデバ石」はよく話を聞いてくれた。そんな違いで、門前払いを食らわなければいけないものなんだろうか。アイアイはなんだかだんだん悲しくなってきた。

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